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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

「そうじゃない。お前はまだ子供だし世間知らずだから、色んな事が判らないんだ。今はまだ、俺の言うことを聞いていればいいんだよ」

 兄のその場渡り的な言い分に、ヴィヴィはあからさまに眉を顰める。

(ちょっと……待って……?)

 これからも、そうなるのか? 

 ヴィヴィに関わる人間は、全て匠海のお眼鏡に適った人物でなければ、ならなくて。

 自分には取捨選択が許されないのか?

 義務教育の年齢なら、まだ匠海の発言も理解は出来る。

 けれど、自分はもう18歳で――もうすぐ(日本での)成人年齢にも達する。

 自分が付き合う人間を選ぶ事くらい、自分で出来る。

(いや……、そうじゃ、なくて……)

 ヴィヴィが今、哀しいのは、悔しいのは、そんな事に対してじゃなくて――。

「………………、……うそ……」

「ヴィクトリア……?」

 俯いて唇を噛み締める妹を、匠海が覗き込んで来ようとしたが。

 ばっと顔を上げたヴィヴィは、苦しそうな表情を浮かべて叫ぶ。

「お兄ちゃんは……、お兄ちゃんはヴィヴィの事、全然信用してないんだよっ! だから、そんな強引にっ 先生を変えるだなんて――」

「違うって言ってるだろうっ!?」

 妹の訴えを遮った匠海の声は、今迄に聞いた事の無い、高圧的で厳しい声。

「……――っ」

 驚きと戸惑いで絶句したヴィヴィだったが、その可愛らしい顔はくしゃりと泣き顔に歪み。

「……~~っ お兄ちゃんの、バカっ!!」

 そんなガキ丸出しの捨て台詞を吐いたヴィヴィ。

 黒革のソファーから立ち上がり、私室へと続く扉を開錠して出て行った。
 
 リビングを抜け、寝室に飛び込んだヴィヴィは、ベッドにダイブして悔しがる。

 そう、悔しい。

 誰よりも愛している匠海に、自分を信じて貰えなくて。

 ちゃんと言葉にして説明しているのに、聞く耳さえ持って貰えなくて。

 悔しい。

 そして、どうしようもなく、哀しい。

 どうして兄は、やきもちばかりを焼くのか――。

 きっとその原因は、ヴィヴィの方にあるのだ。

 卒業プロムでのアレックス。

 今回の白砂。

 誰にでもいい顔をするヴィヴィを、匠海は許せない。

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