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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

(けど……。そんなこと言ってたら、ヴィヴィ、普通の生活、送れない……)

 スケーターで、共学校に通う大学生で、等身大の18歳の自分。

 なのに、匠海の許した人間としか、付き合ってはならないなんて。

 そして、

「………………」

(初めて……した……。ケンカ……)

 目の前に広がる白い羽毛布団の海に、ヴィヴィの顔がぽふんと沈む。

 匠海と両思いになったのが、昨年の11月頭。

 その1年1ヶ月の間、兄妹は一度も喧嘩をしなかった。

 それもその筈、ヴィヴィが15歳で凶行に及ぶまで、兄妹は一度も喧嘩らしい喧嘩をした事が無かった。

 躰の関係だった間は、したけれども――。



 ・喧嘩をしても、家族の前では普通に接すること



 恋人関係になった時に、2人で交わした約束。

 多分、今のヴィヴィならば、それくらいの事は余裕でやってのける。

 もう周りに心配と迷惑を掛けたくないから。

 けれど――、

「……~~っ」

 羽毛布団に突っ伏して悶絶したヴィヴィは、ばっと身体を跳ね起こし。

 ルームシューズも引っ掛けずに、寝室を飛び出した。






 開け放したままの、兄妹の私室の境界線。

 黒革のソファーには、こちらに背を向けて座る兄の姿。

 足音も立てずに跳び付いたヴィヴィに、首に両腕を絡ませられた匠海は、びくりと反応した。

「……ヴィクトリア……?」

 顔のすぐ傍に金色の頭があって振り向けない匠海が、そう声だけで妹の様子を窺えば。

「……やだ、よぉ……っ」

 匠海の首元に顔を埋めたヴィヴィから、そう蚊の泣く様な声が漏れる。

 けれど、匠海はそれ以上反応せず。

「……~~っ ケンカ、したくない、よぉ……っ」

 まるで駄々っ子。

 自分の主張は曲げたくは無いが、大好きな匠海とは喧嘩なんてしたく無い。

 好きなの。

 兄が自分を見つめる時の、優しく細められた瞳が。

 暖かい声で名前を呼ばれるのが。

 逞しい躰で、自分の全てを翻弄されるのが。

 だから、嫌だ。

 喧嘩なんて、絶対に厭だ。

 少なくとも自分は、もう匠海に笑顔以外の顔は見せたくは無い。

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