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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

「……っ ああ、俺もだよ」

 兄の咽喉仏に触れた腕に、その言葉と響きを振動として感じた。

 妹の両腕を優しく解き背後を振り返った匠海は、その脇に手を入れて、ひょいとソファーの背凭れ越しに妹を抱き上げた。

 さすがに驚いたヴィヴィが、灰色の瞳を真ん丸にするのを、匠海が心底申し訳無さそうに下から覗き込んでくる。

「ごめん……。ヴィクトリア……、悪かった」

 謝罪を口にしてくる匠海に、ヴィヴィはふるふると頭を横に振る。

(お兄ちゃんだけの、せいじゃない……)

 なんて言っていいのか分からず、もう一度兄にしがみ付けば、ソファーの上に降ろされた。

 膝の間に横抱きされて、隙間なくぴったりと躰を寄せ合えば、焦燥感にも似た感情が徐々になりを潜めていく。

 少し落ち着いたヴィヴィは、とりあえずホッと胸を撫で下ろす。

 匠海も喧嘩したくなど無いと、言ってくれた事に。

「……どうしても、女の先生が、いいの……?」

 そこは兄にとって、どうしても譲れないところなのだろうか?

 恐るおそるそう口にしたヴィヴィに、匠海は抱擁を緩めて見下ろしてくる。

「ヴィクトリアは、白砂先生と、合う?」

「ん……。正直、ピアノはお兄ちゃんのほうが、好き……だけど。ヴァイオリンは凄い、と思う。ヴィヴィ、今先生みたいに。弾けるようになりたいの」

 太くて色気のある、白砂の音色。

 それはヴィヴィの好みのど真ん中だった。

「……そうか……。じゃあ、このままでいいよ」

 静かに自分の要求を撤回した匠海に、ヴィヴィはおずおずと唇を開く。

「……ほんとう……?」

「ああ。ごめんな、いきなり混乱させるような事を口にして……。でも、決してお前を信じてない訳じゃないよ」

「ん……」

 こくりと頷いたヴィヴィに、匠海は苦笑しながら囁く。

「だって、ヴィクトリア。俺のこと、大好きだしな?」

「んっ だいすき……っ!!」

 くしゃりと顔を歪めたヴィヴィは、そう甘えた声を出すと、また匠海の胸にぎゅうとしがみ付く。

(大好き……っ 本当に、自分でも訳分かんなくなっちゃうくらい、お兄ちゃんのこと、大好きなのっ!!)

 そんな華奢な躰を、ぽんぽんと撫でながらあやしてくれていた匠海。

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