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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

「……~~っ!? ヴィヴィ、そ……そんな事、言ってないっ!!」

 ペ――自分は絶対に、そんな単語を使ったりしない。

 たとえ、意識が朦朧としていても。

 うん、絶対に!

「言いました~~」

 間延びした声で楽しそうに言い募る兄。

「言ってませんっ」

「言いましたぁ~~」

 妹の神経を逆撫でする様に続ける匠海。

「~~~っ!! ……てか、あれ……? でも、どうして今先生だけ……なの?」

 ヴィヴィのその疑問に、匠海は「ん?」と色気を含んだ声で先を促してくれる。

「セルゲイは? 何で今先生は駄目で、セルゲイは良いの?」

 白砂はイケメンだから、嫌だという匠海。

 一方、ロシア語家庭教師をしてくれいているセルゲイ=スミノフは、円もぞっこんのイケメン。

 30歳と少し兄より年齢は上だが、彫りの深い眉の下の垂れ目気味の瞳と甘いマスクは、女子なら必ずキャーキャー言う程のモテ男だろう。

(まあ、ヴィヴィは、なんとも思わないけど……)

「ああ、セルゲイはいいんだ」

 さっぱりした兄のその返しに、ヴィヴィの頭の中は「???」で一杯になる

(え? な、何で……? 今先生はお兄ちゃん好みのイケメンで、セルゲイはお兄ちゃん好みじゃない……とか?)

 しかし、その予想の遥か上を行く兄の返事に、ヴィヴィは最初何を言われたのか判らなかった

「彼は、ゲイだからね」

「………………………………え?」

 きょとんとするヴィヴィが後ろを振り向けば、匠海が広い肩を竦めながら再度説明する。

「だから、セルゲイは “男にしか興味がない” から、ヴィクトリアには手を出さないってこと」

 兄の瞳を見詰めながら、ヴィヴィはしばらく固まっていた。

 それだけ、今迄ヴィヴィが生きてきた中で、その告白はぶっ飛んだものだった。

「…………うぇえ゛えええ~~っ!?」

 きっかり30秒後にそう叫んだヴィヴィ。

 広いバスルームにその細い悲鳴が反響し、兄は少し五月蠅そうに眉を顰める。

 が、ヴィヴィはそれどころじゃなかった。

「じょ……、冗談、だ、よね……?」

「冗談でお前の家庭教師になんて、選べられるか。ちなにみセルゲイは “ノンケは専門外” らしいから、クリスも大丈夫だ」

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