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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
翌週に全日本選手権を控えた、12月18日(土)。
ヴィヴィは匠海と連れ立って、高円寺のコンサートホールへと向かった。
ヴァイオリン&ピアノ講師の白砂 今が、出演するコンサート――そのチケットを頂いたから。
(絶対に、お兄ちゃんと一緒に行こう……。じゃないと、なんか後が怖いから……)
年末の忙しい時期ではあったが、匠海は「ん、いいよ」と2つ返事で、同行を承知してくれた。
300席の客席は満席で、立ち見もいた。
纏っていたコートを折り畳み、白ワンピの膝に乗せたヴィヴィ。
その陰でこっそり手を握り締めてきた匠海に、妹の口角がふっと上がる。
「なんか、デート、みたい……?」
フランス語で微かに囁けば、
「みたい……じゃなくて、デート、だろ?」
と、ヴィヴィを喜ばす答えを寄越す匠海。
親指の腹で妹の手の甲を撫でていた匠海は、いったん解いて、互いの指を絡ませてきて。
「……~~っ」
絡ませた指をきゅっと握られて、ヴィヴィの鼓動がとくりと跳ねた。
(も、もう……、今から演奏、聴こうっていうのに~……っ)
そう心の中で兄を詰りながらも、やっぱり嬉しいので、口許がにやけてしまう。
パンフレットを見て過ごしていると、開演時間になり。
照明が絞られ、客席には闇が下りた。
さすがにもう大丈夫かと、ヴィヴィは掛けていたサングラスを外す。
念の為、変装したのだ――色んな意味で。
和楽器をクローズアップしたその演奏会は、二部構成。
第一部: 二十五絃箏(こと)・中居 智弥
ヴァイオリン・白砂 今
第二部 : 尺八アンサンブル・岩田 卓也・石垣 秀樹・中村 仁樹
先程パンフレットを見て、初めて気付いたのだが。
第二部に出演する石垣 秀樹は、平昌五輪シーズンのSPで使用した曲『海の路』を演奏する、AUN J クラシックオーケストラの尺八奏者だった。
(やばい……。今先生にしか お花、贈って無いや……。まあ、差し入れの菓子折り持ってきたから、いいか)
楽屋宛に贈った大きなフラワーアレンジメントは、会場の入り口にでかでかと飾られていて。
万が一の事を想定して『今先生へ ファン&教え子 より』と名前を濁しておいたので、助かった。