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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

 第一部が始まってすぐは、ヴィヴィはまるで自分の事の様にドキドキしていた。

 白砂はプロのミュージシャンなのに。

 共演の箏奏者・中居が作曲した2曲に、白砂が作曲した1曲。

 途中軽いトークを交えながら進むコンサートに、ヴィヴィは酔いしれていた。

(やっぱり、今先生の音色……。好きだなぁ~……)

 いつもは太くて艶たっぷりの色香を漂わせている、白砂のヴァイオリン。

 曲によって七変化する響きは、切ない曲もしっとりと謳い上げて聴かせてくれる。

 箏の音色も美しくエレガントで、 まさに “ 癒し ” という言葉がぴったりだった。

「第一部、最後の曲になります。わたくし 中居の作曲した曲です。リサイタルではよく尺八と演奏するのですが、今君とのヴァイオリン・ヴァージョンも、とても気に入っています。楽しんでくれると嬉しいです――『花のように』」

 箏奏者の中居がマイクを置き、25本の絃が張られた箏に向き合う。

 右の指に着けられた白い爪で弾かれる音はくっきりと浮かび上がり、左の素手で弾かれる音はどこか丸い。

 箏で奏でられる第一主題に、白砂の繊細な音色が重なる。

 長い息を持つ主旋律のヴァイオリンは、しっとりと響き。

 そして、音量を落とした琴がなぞる、ゆったりとした裏メロディー。

 それが鼓膜を揺らした途端、ワンピに包まれた肌の表面が、ざわざわと泡立ち始めた。

「………………っ」 

 何故か分からない。

 その箏のメロディー――第一主題をアレンジしただけのもの。

 酷く心が揺さぶられ、ヴィヴィの灰色の瞳がはっと見開かれる。

 高音でサラリン(ひとつの絃を小刻みに掻き鳴らす)を響かせたのち、25絃もあるある絃を高音から下っていく。

 徐々に激しさを増す2人のユニゾン。

 次に響いたのは白砂の奏でる、力強いのにどこか切ない音色。

 細かい音で支えながらも引き立つ箏の音色に、細い咽喉が詰まる。

 大きな瞳一杯に盛り上がった涙は、本人も気付かぬ内に白い頬を伝っていた。

(……凄、い……っ)

 前半の美しい旋律とは対照的に、後半は激しく。

 しかし、やはり美しい輝きは一つも損なわれない。

 切なくて。

 儚くて。

 花の一生の様に、短くて淡い。

 けれど、一瞬の輝きに賭ける――美しく咲き誇る瞬発力。

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