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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

 曲の余韻が残るホールには、大きな拍手が捲き起こる。

 第一部の終了と共に、明るくなっていく客席。

 「ぐすっ」と鼻を鳴らした妹に、隣の兄が気付き、顔を覗き込んで来て。

「………………」

 丸みの残る頬にある、幾筋もの涙の痕。

 それを認めた匠海は、何故か固まっていた。
 
 いつもなら、「何、泣いて」と、面白がりからかってくるのに。

 ただ茫然と自分を見下ろす兄。

 ヴィヴィはやっと自分の情けない状態に気付き、バッグから取り出したハンカチで涙を拭う。

「……やばいぃ……っ」

 まさか泣いてしまうとは。

 恥ずかしくなってそう漏らしたヴィヴィだったが、匠海は無言で立ち上がり。

 休憩へと向かう人の流れに沿って、客席を離れてしまった。

(……おにい、ちゃん……? レストルーム、かな……?)

 サングラスを掛けて後を追おうかとも思ったが、先ほど聴いた曲の方が気になって。

 パンフレットを再度開いたヴィヴィは、そこに書かれた人物紹介と曲紹介に、じっと瞳を向けたのだった。

 第二部の尺八アンサンブルからも、前向きに力強く進む パワーを貰い、コンサートは幕を閉じた。

「ヴィヴィ、楽屋に挨拶に行く」

 持参した菓子折りを持ち上げて見せれば、匠海は「付き合うよ」と微笑んだ。

 あまり広くない楽屋には、出演者の友人知人が溢れかえっていて。

 一瞬躊躇したヴィヴィを、白砂のほうがすぐに見つけて呼んでくれた。

「すっごく素敵な曲ばかりでした。箏との調和も素晴らしくてっ 特に最後の曲――。ヴィヴィ、ファンになりました!」

 満面の笑みで感想を述べるヴィヴィに、

「なんだ。俺の作曲した『麒麟』が一番じゃないのか……」

 と、白砂は少々凹んだ様子。

「えっ!? あ、良かったですよ。なんか、ぬぼ~としたキリンさん感が出てて」

 フォローになってないフォローに、白砂は突っ込む。

「そのキリンじゃないし」

 そんな事を言いながらも、共演した箏奏者の中居 智弥を紹介してくれた白砂。

 ヴィヴィは夢中で彼の作曲した『花のように』を誉めちぎり。

 そして、以前お世話になった尺八奏者の石垣 秀樹にも挨拶をし、その場を後にした。




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