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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

 ちょうど2年前の年末。

 スパへと連れ出してくれた匠海によって、初めて『鞭』を与えられた場所。

 兄がそうした理由を、今のヴィヴィは承知している。

 けれど、それでも。

 心に負った深い傷は、そう簡単には消えてはくれない。

「ご飯、食べる……だけ……」

 スポーツカー特有のコンパクトな車内に落ちる、ヴィヴィの独り言。

 ゆらゆらと波打つ心は、いつまで経っても凪いではくれなくて。

 数分後に戻って来た匠海に助手席のドアを開けられ、ヴィヴィはしょうがなく外へと出た。

 ワンピの首元に引っ掛けていたサングラスを取った匠海は、手ずから妹にそれを掛けさせ。

 何故かコートの襟元を立たせ、そのまま手を引いてホテルのエレベーターへと向かって行く。

「………………?」

 エレベーターを待っている間、ヴィヴィの頭を胸に抱き寄せてきた匠海は、エレベーターの中でも同様で。

 今からレストランへ行くのに、こんな変装が必要か?

 そうヴィヴィが感じた瞬間、エレベーターが目的の階に着いた。

 肩を抱かれて降りたフロアは、どう見ても客室フロア。

 絶対にレストランなんてある筈もない、人けのない静まった廊下が、左右に伸びる空間だった。

「……え……?」

 戸惑った声を上げるヴィヴィに、匠海は「おいで」と促しながら、一番隅の部屋のカギをカードキーで開けた。

 暗闇の広がる室内が、ぱっと暖かな光に包まれ。

 その先に広がる光景に、困惑気味だったヴィヴィの心は一瞬で奪われた。

「……~~っっ」

 兄の腕の中から飛び出したヴィヴィは、広いベッドルームを駆けて、大きなガラスにべったりと張り付く。

 眼下に広がる大手町や皇居の緑、新宿の高層ビル群は、まるで宝石を散りばめた様に美しく輝き、東京の夜を彩っていた。

「すごい……っ」

 感嘆の声を上げたヴィヴィは背後を振り返り、ふわりと微笑む。

「お兄ちゃん、凄いよ?」

 妹の無邪気すぎる様子に苦笑した匠海は、それでも嬉しそうにヴィヴィの傍に寄って来る。

「確かに、圧巻だな。クリスなら、怖がりそうだけど」

 兄がそう言うのは、この大きな窓ガラスが天井から床まで届く巨大な物で。

 高所恐怖症のクリスは、確実に窓辺に近付けないくらいの、眺望だったから。

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