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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
「そのカラオケ、男も来るのか?」
「うん。だってサークルのコンパだもん」
妹のその返事に、匠海の整った顔が一瞬苦々しげに歪んだが、ヴィヴィは気付かなかった。
「……ほほう。じゃあ、俺が選曲してやる」
「え? 本当?」
驚くヴィヴィの隣でスマホを弄った匠海は、その液晶に曲名と歌手名を表示して見せてきた。
「うん、これさえ頭に叩き込んでおけば、完璧だ。いいかい?」
「ん?」
「たぶん。何度も何度も「曲入れなよ」と、周りから催促される。それを何度か断って、充分もったいぶった後に、この曲を歌うんだよ?」
兄のその説明に、ヴィヴィは大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、
「もったいぶった後……?」
「そうだ」
「うん、分かった~」
素直に頷いた妹に、兄は更に悪知恵を吹き込んでくる。
「いいかい? 気持ちを込めて、情感たっぷりに……。そうだな、振り付けも覚えて踊れたら、完璧だ」
「了解! ありがとうお兄ちゃん、やっぱお兄ちゃんは頼りになるの」
頼もしそうに瞳を細めて見つめてくるヴィヴィに、匠海も切れ長の瞳を細める。
「そう? じゃあ、キスしてくれ」
「ん。ちゅ~~♡」
兄の形の良い唇に効果音付きで吸い付いたヴィヴィは、「これで、心配事は無くなった!」とほっと胸を撫で下ろしたのだ。
なのに――、
『魅せられて』 ジュディ・オング
『古い日記』 和田アキ子
『狙い撃ち』 山本リンダ
兄に教えて貰った昭和の名曲を、ばっちり頭に叩き込んだ振付と共に披露すれば。
当たり前だが部員達は、腹を抱えて笑い転げ。
1曲目で「なんか、おかしい???」と気付きながらも、「もっと、もっと歌って!」と催促されれば。
元来のサービス精神を発揮したヴィヴィは、3曲とも披露してしまい。
――で、今に至る。
「ふん。男のいるコンパに行こうとする、お前が悪いっ」
憮然とした表情で突っぱねる匠海に、
「だってぇ~……。しょうがないじゃない~……っ」
そう甘えた声を上げたヴィヴィは、ぽすんと兄の隣に正座する。
「……しょうがないかも知れないけれど、俺は面白くない」
匠海も妹の都合を理解はしてくれている様で、ヴィヴィは少しだけ溜飲を下げた。