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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

 そして、悪い話――。

「俺、お見合いするからね」

 クリスとのドライブから帰宅したばかりのヴィヴィに、匠海は開口一番そう言ってきた。

 兄のリビングでジンジャーティーを手にしていたヴィヴィは、カップに口をつける直前で固まり。

「……へ……?」

 そう間抜けな返事を返してしまった。

 お見合い。

 男女が結婚相手と出会う為に仲人を立て、料亭等で「あははは」「うふふふ」と互いを化かし合う一席のこと。

 カップとソーサーをテーブルに戻したヴィヴィは、きょとんと兄を見返す。

「な、なんで……?」

「見合い話が来たから」

「………………」

 兄のその端的な説明に、ヴィヴィはますます訳が分からず、大きな瞳をぱちぱちと瞬く。

「黒澤って、覚えてるか?」

 兄の発した苗字に、ヴィヴィは聞き覚えがあった。

「お兄ちゃんの、産みのお母様の、おうち……?」

「そう。実は12月の頭、母の命日で黒澤家に行って来たんだが――」

 兄が説明するには、

 双子がグランプリ・ファイナルの為に、カナダ ケベックシティーへと移動する前日が、産みの母の命日だったらしく。

 毎年付き添ってくれていたジュリアンにも「もういい年だから。今までありがとう」と付添いは断り、匠海一人で向かったらしい。

 そしてその法事の席で、故人の姉となる叔母から、見合いの話が持ち上がったのだという。

「黒澤家には長年世話になっているし、今の篠宮の家業にも関わっている。まあ一回くらいなら、向こうの要望に応えるのも筋かと思ってね」

 確かに、匠海の言う通り。

 篠宮ホールディングス㈱の関係会社の中に、黒澤火災海上保険、黒澤倉庫、黒澤証券がある。

 只の産みの母の実家――と言う訳ではないのだ。

「…………そう……」

 静かに説明を聞いていたヴィヴィは、ぽつりとそう呟き。

 けれど、その頭の中は真っ白だった。

 匠海がお見合いをする。

 世話になっている人の頼みで、聞き入れてあげたいから。

 お見合いをすることは決定事項で、もう双方で話は進み。

 その日取りは、1月10日(祝・月)――ちょうど一週間後。

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