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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章
追い詰めるように匠海がヴィヴィにじりじりと詰め寄ってくる。なぜか匠海から後ずさりしたヴィヴィは、そのまま壁際まで追い詰められた。
妹をさも楽しそういたぶり余裕の笑みで見下ろしてくる匠海は、こんな時であるのに何故か色気を醸し出していた。さらさらの黒髪が屈んだことによって滑らかな額を覆い、その隙間から除く灰色の瞳は見るものを引き付けて離さない不思議な光を湛えている。そしてその魅力的な匠海の顔が、どんどんヴィヴィとの距離を縮めてくるのだから堪らない。
(ひ~~っ!! 近いっ……近いってば――っ!!)
ヴィヴィは完全に万事休すとなった。背中に触れるのは「もう逃げ場はないよ」と主張する固い壁。眼前に迫りくるのは愛しい匠海の端正な顔。
「―――っ!?!?」
そして――窮鼠(きゅうそ)猫を噛む。
「うぅぅ……っ! ヴィっ、ヴィヴィはただっ……、お兄ちゃんに『エロロリ変態オヤジの義父ヘロデ王役』をやって欲しかっただけだもん――っ!!!」
ヴィヴィは小さな握り拳を作って苦し紛れにそう叫ぶと、顔を真っ赤にしてはあはあと息を吐き出した。そしてそんなヴィヴィとは対照的に、ぱちくりと目を瞬いてヴィヴィを見下ろす匠海の顔は徐々に青ざめていく。
「エロ、ロリ……変態オヤジ……」
ヴィヴィの無我夢中の叫びは、匠海に物凄いダメージを与えた様だった。よろよろと自分が背にしていた壁に手を付く匠海からさっと逃れたヴィヴィは、ダッシュして二人の私室を隔てる扉へと逃走する。体は安全な自分の私室へと引込め顔だけを扉の間から出したヴィヴィは、念押しをした。
「ってことだから! や、約束だよ、お兄ちゃんっ!」
ヴィヴィはそう言うと、逃げるが勝ちと私室に引っ込んだのだった。
まあそんなこんなで馬鹿馬鹿しいやり取りが行われた結果、全日本選手権で匠海はジャッジ席のすぐ後ろの観覧席からヴィヴィを見守ってくれていた。
残り一分となった直前練習で、ヴィヴィは最後にひょいっとトリプルアクセルを飛んで感触を確かめると他の選手と一緒にバックヤードへと引き上げた。