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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

「お嬢様。お下げしても宜しいですか?」

 掛けられたその声に、ヴィヴィは はっとして俯いていた顔を上げる。

 すぐ隣に兄の執事・五十嵐が控えていた。

 ローテーブルには、飲み干したコーヒーカップと、手付かずのティーカップが置かれたままだった。

「あ……、あ、うん」

 咄嗟に小さな顔に微笑みを湛えたヴィヴィの返事に、五十嵐も瞳を細めて茶器を片付けていく。

「あと30分でディナーとなります。先程、旦那様と奥様もお戻りになられましたよ」

 五十嵐の言葉に時計を見れば、針は19時を指していて。

 静かにソファーを立ったヴィヴィは、私室へと戻った。

 30分後にディナーの席で、匠海と顔を合わす。

 普通に兄弟として会話して、食事をしなければならない。

 その為には、こんがらがった毛糸の様な頭の中を、何とかしなければ。

 そう思い書斎に籠ろうとしたヴィヴィは、ワンピのポケットで震えるスマホに気付く。

 着信相手を確認したヴィヴィは、一瞬の躊躇ののち、応答し。

 短い会話を終えると、その足でウォークイン・クローゼットの中へと消えて行った。




「ぎゃ~~っ こ、こわいぃ~~っ!!」

 助手席でアームレストにしがみ付きながら叫ぶ円に、ヴィヴィは苦笑しながら車を走らせる。

 今日納車したばかりのレンジローバー。

 白いボディーに若葉マークを着け、夜の帳が下りた田園調布を転がしていく。

「ヴィヴィが車運転してるなんて、し、信じらんないっ」

 目を白黒させて、ギャーギャー騒ぐ円が面白くて。

 自然に笑顔になったヴィヴィは、20分のドライブを終えて、真行寺家の駐車場へと車を駐車させた。



「今からそっち、行っていいかな?」

 今から1時間前。

 電話を掛けてきた円に、ヴィヴィは第一声でそう尋ねた。

『もちろん。てか、泊まれば? うちの両親、今日はパーティーでいないからさ』

 円のその言葉に甘え、ヴィヴィは家族のディナーをキャンセルし。

 自分で運転して、田園調布の真行寺家へと向かったのだ。

 ヴィヴィの運転を途轍もなく不安がる朝比奈と、

 妹の運転技術は教習所で見ているので「ヴィヴィ、運転上手いよ……」と執事を窘めてくれたクリス。

 その2人に見送られながら。



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