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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章
「お邪魔します」
20畳程の私室の隅にある大型水槽は3つ。
サンゴと20cm大の海水魚が際立つもの。
50㎝のサメだけのもの。
青々とした水草が生い茂った、淡水魚のもの。
全ての水槽に歓喜の声を上げてへばり付いたヴィヴィに、太一は求められるままに説明をしてくれた。
「ブラックチップシャーク……。カッコいい♡」
すべてのヒレの先が黒いサメは、2mの巨大水槽をゆったりと泳いでいて。
その洗練されたフォルムに見惚れて呟くヴィヴィを、横に立った太一が見下ろしてくる。
「鬼瓦は元気?」
鬼瓦とは、ヴィヴィの水槽にいるアケボノハゼのこと。
その目付きの悪さから、円が名付けてしまった。
ヴィヴィは未だに、ピンキーの名で呼んでいるが。
「はい。っていうか、お兄ちゃんまで「鬼瓦」って呼ぶようになっちゃって……」
妹の親友である円が気に入ったらしい上の兄は、いつも面白がってその名を呼びながら、水槽を覗き込んでいた。
ヴィヴィが嬉々として餌を与えて育てている海水魚を、匠海はいつも灰色の瞳を細め、自分ともども愛でてくれていたのに。
先程までの笑顔が萎んでいくヴィヴィに、
「ヴィヴィちゃん、何かあった?」
そう気遣わしげに尋ねてくる太一。
きゅっと下唇を噛んだヴィヴィは、水槽へ向けたままの瞳を微かに泳がせ、
「……何も、無い………………事も、ないです」
そう思わせぶりな返事を零す。
「はは。僕で良ければ、お聞きしますが?」
優しい声でそう切り出してくれる彼は、本当にお人好しだと思う。
円に電話を貰った時、ヴィヴィは咄嗟に太一の事を思った。
この日本で唯一 ――クリス以外に、ヴィヴィの実兄への恋心を知っている人間。
「………………、マドカ、には……」
おずおずと呟きながら、ちらりと上目使いに太一を見れば、
「勿論、言わないよ。匠海さんのこと?」
期待通りの返事をくれた太一に、ヴィヴィはこくりと頷く。
「……お兄ちゃん、お見合い、するって……」
「お見合い? 24歳で? えらく早いね……」
男性の平均初婚年齢が30歳を超えるこのご時世、太一のその反応は当然のものだろう。