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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

「太一さんは、お見合いの話とか、来ます……?」

 太一は匠海の1歳下の23歳。

 代々続く老舗商社を家業とする、資産家の跡取り息子。
 
 一族には官僚も多い家柄の次期当主として、彼と婚姻を結びたい者も多いだろう。

「来ているよ。まだ結婚願望もないから、断りまくってる」

「……です、よね……」

 常識的な太一の返事に、ヴィヴィは小さく頷く。

「仲人は誰?」

「黒澤家……お兄ちゃんの産みの母方の、叔母様だそうです……」

 自分も会った事さえない人物を挙げたヴィヴィに、

「あ~……。それは、断り辛いね……」

 そう困惑の声を上げた太一。

「……太一さんなら、お見合い……します?」

「ん~~。……する、かな」

 両腕を胸の前で組んだ太一は、結構すぐに答えを出した。

「………………」

 あからさまにしゅんとしたヴィヴィに気付いた太一は、先程まで腰かけていた革のソファーを勧め、自分もその隣に腰かけた。

「ほら、お見合いなんて、一度しておけば相手の顔も立てられるし、次にお見合いを持ってこられても、断りやすくなる」

「……はい……」

「ヴィヴィちゃん。一度だけ、我慢してみよう?」

 太一の説得は尤もだった。

 ヴィヴィだってそれは解っていて。

 けれど、どうしても釈然としないのだ。

「……でも……、でも、お兄ちゃんっ 「こんな事、これから何十回とあるんだぞ? その度にこうやって、駄々を捏ねるのか?」って……っ」

 小さな声でそう言い募るヴィヴィの声は、内心の動揺を表す様に震えていて。

 必死に抑えていた気持ちが、その一言で堰を切ったように薄い唇から溢れ出す。

「どうして……? お兄ちゃんはヴィヴィの恋人なのに……っ 結婚も出産も子育ても出来ないけれど、ずっと一緒にいようって誓ったのにっ なんで? どうして……っ?」

 まるで目の前にいる太一を、匠海と錯覚したかの如く問い詰めるヴィヴィ。

「ヴィヴィちゃん……」

 驚きを滲ませた太一の声に、ヴィヴィははっと己を取り戻した。

「……ごめん、なさい……。取り乱したり、して……っ」

 いつの間に握ったのか。

 太一のニットの胸に縋り付いていたヴィヴィは、慌てて両手を離した。

(ヴィヴィ……なに、して……)

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