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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

 周りの人間に、匠海との事を相談したことなど一度も無くて。

 それもあるだろうが、余りにも周りが見えなくなっている今の自分の状態に、ヴィヴィは愕然とした。

「全然、問題ない。大丈夫だから」

「……すみま、せん……」

 顔の色を失くしたヴィヴィを、太一はそんな言葉でフォローしてくれた。

(もう、何やってるんだろう……)

 自分がこんなだから、匠海は「いい加減にしろ」と窘めたのだろう。

 ヘリンボーン柄のワンピの膝に視線を落としたヴィヴィを、太一はぽんぽんと金色の頭を撫でてあやしてくる。

 そういえば、前も同じ事をされた。

 確か水族館でデートをしている最中に。

 その時のヴィヴィは、匠海と太一が似ていると思った。

 外見も中身も全然違うのに。

 ゆっくりと顔を上げたヴィヴィに、太一は柔らかな笑みを湛えて口を開く。

「ん~~、そうだね~……。たぶん、だけど……」

「…………?」

「匠海さんは、お見合いをすることで、親孝行になると思っているんじゃないかな?」

 落ち着いた太一のその声は、頑なになっていたヴィヴィの心に真っ直ぐに入ってきた。

「……え……? 親孝行……ですか?」

「ん。あくまで僕の想像だけど……。お見合いをしているというパフォーマンス を両親に見せることで「自分は努力したけれど、婚姻には至らなかった。申し訳ない」と、態度で示そうとしてるんじゃないかと……」

「………………」

 確かに、太一のその想像は、的を射ている様な気がする。

 兄妹が心を通わせたとき、匠海は言っていた。



『俺はマムや、ずっと息子として愛してくれるダッドも、兄として慕ってくれるクリスを……、裏切りたくなかった』



 皆を裏切る過ちを犯したヴィヴィを、匠海は結局赦し、それどころか女性として愛してくれた。

 2人で両親とクリスに恩返しと罪滅ぼしをしながら、一生添い遂げるとの約束までして。

「きっと、そうだと思う。ヴィヴィちゃんとずっと一緒に居る為の、匠海さんなりの戦略なんじゃないかな」

 真っ直ぐに見つめてくる真行寺の言葉には説得力があり、そしてヴィヴィは彼の解釈を信じ込みたかった。

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