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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

「ふうん。エッチなヴィクトリアは、元気になった途端、欲しくなったんだ?」

 余裕綽々の匠海のからかいにも、ヴィヴィは「ん……」と素直に頷く。

 そんな妹に微かに苦笑した匠海。

 投げ出していた両腕を持ち上げると「ふわわ……」と大きく伸びをし、頭の後ろにゆったりと腕を組む。

「でも俺、まだ “そんな気分” じゃないんだよね」

「………………」

(こんな、になってるのに……?)

 灰色の瞳で、何だか悪巧みしていそうな匠海の顔と、もう立派に起ち上がっている昂ぶりとを見比べれば、

「朝起ち、だからね。ヴィクトリア、俺を誘惑してごらん?」

 そう囁く兄の姿はまるで、砂漠の王がハレムの美姫に「余の躰を赦す」と恩赦を与えるかの如き佇まいだ。

「誘惑……?」

「そうだよ」

 兄の意地悪な言葉にも、ヴィヴィは最初からそのつもりで来たので、こくりと頷いて見せた。

 ぺたりと座り込んでいた腰を上げ、ゆっくりと兄の上に四つん這いになる。

 自分を見上げてくる兄を見下ろしながら、夜着越しに掌を這わせ。

 それもしばらくすれば、物足りなくなったヴィヴィは、

「おにいちゃん、バンザイ……」

 そう可愛らしく呟きながら、兄の上半身を隠すそれを頭から抜き取らせた。

 ドバイで日焼けした肌は、まだ少し小麦色で。

 週に4度は通っているらしいジムで鍛えた躰は、黒いシーツに映え、ヴィヴィの瞳には美味しそうに映る。

 匠海に快感を与えるのは、最初から諦めていた。

 どんなに頑張って舐め上げようが、兄にとってはくすぐったさしか与えられない自分の愛撫。

 ならば、ヴィヴィは自分の好きな様にその躰を味わい、自身の準備を整えることに注力する。

(何で気持ち良くなってくれないんだろ……。ヴィヴィは、こんなに、なっちゃうのに……)

 匠海の逞しい肢体に掌を這わせるだけで、

 その香りを確かめながら、肌の味を舌で辿るだけで、

 ヴィヴィの心も躰も、しっとりと潤い解れていくのに。

 唇に触れるか触れないかのところで、思わせぶりなバードキスを繰り返せば、端正な顔に宿っていた余裕の笑みは、徐々に色を変えていく。

「スキ……」

 耳朶に気持ちを吹き込みながら耳たぶを口に含めば、兄の美しい顎のラインが一瞬だけふるりと震えた。

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