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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章                              

 四方へ優雅に挨拶を送った本田がこちらへと引き返してくるのが目に入る。ヴィヴィはエッジカバーを外すと、開けられたフェンスから勢いよく氷の上へと飛び出した。全日本フィギュアは投げ込まれるプレゼントが多く、フラワーガールにぶつからないように気を付けながら、待っている間に冷えてしまった体を急速に温める。

 本田のFPの点数がアナウンスされる中、ヴィヴィはコーチとクリスのいるフェンス傍へと戻った。

「Smile、ヴィヴィ」といつも通りのジュリアン。

「ヘロデ王が見守ってるよ……」と匠海のいるほうをちらっと見て軽口を叩くクリス。

 水を飲んでいたヴィヴィは、小さく声を上げて笑う。

「21番、篠宮ヴィクトリアさん。松濤国際スケートクラブ」

 アナウンスと会場中からの大きな歓声を聞きながら、ヴィヴィはリンクへと静かに出ていく。いつも通りジャンプの軸を確認し、いつも通りストッキングの上からスケート靴に異常がないか触れて確かめる。そしていつも通りに衣装の下に隠しているペンダントトップに指先で触れると、リンク中央へと移動してゆっくりとポーズを取る。

 ティンパニとタンバリンの音色と共に目から下を覆っていた左手を引きながらにっこりと無邪気に微笑むヴィヴィ。その視線の先にいるのは、真剣な表情で妹を見守る兄の姿。

 優雅に下した両手を腰に当てオーボエの音色にヒップエイト(腰を八の字に回す)の動きを乗せると滑り始める。ショルダーシェイクの動きを入れながらトップスピードに乗ると、管楽器のファンファーレに合わせて右足を振り上げ、トリプルアクセルへと踏み切る。空中で黒い衣装の裾がふわりと広がり、幾重にも重ねられた深紅の布地が印象的にはためいた。

 綺麗なランディングで降りたヴィヴィは胸を張り、満足そうに紅く縁どられた唇に笑みを浮かべ、漲る王女の貫録を表現する。
 
 徐々に静かになる曲の中、フルートの調べの上に浮かび上がるようなオーボエのエキゾチックな音色。それに乗せて腕を蛇の様に蠢かすスネークアームスの動きを入れながら助走をし、トリプルアクセルとトリプルトゥーループのコンビネーションジャンプを決める。

(よし! 決まった!)

 ヴィヴィは心の中でガッツポーズをすると、続けてトリプルフリップとダブルトゥーループのコンビネーションジャンプを跳ぶための助走へと入り、踏み切った。
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