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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章
「なんかね……ちょっと、ヴィヴィらしくないのよね……」
あの日――ロシアでサロメを振付けなおしてもらっている最中、ジャンナは呟いた。
「らしく、ない……?」
自分の為に自身で振付けたプログラムなのに「らしくない」と言われ、ヴィヴィは正直少し凹んだがそんな場合ではない。
「ん~……ぶっちゃけ、『色気を出さなきゃ』と背伸びしすぎなのよ」
「背伸び……?」
ジャンナの言葉に、ヴィヴィは首を傾げる。
「ええ。まあジュニアからシニアへ移行する選手が背伸びをしたがるのは当然だけれど、『しすぎる』のは良くないわ」
確かに。ヴィヴィの中では「サロメは義父を誘惑する妖艶な大人の女性」というイメージが先行していた。けれどよく考えてみれば、実際のサロメはヴィヴィと同じ15歳という設定のはず。
(実はそんなに色っぽくもないのかな……?)
「色気というものには色んなタイプがあるのよ。例えば知的な女性――真面目で硬い部分とふと垣間見える女性らしい部分とのギャップに男性は色気を感じるの。それとは正反対の幼稚な女性……つまりロリータね――受け身で弱い女性のその弱さに色気を感じ、男性は保護欲求に駆られる」
「ほほう……」
人生経験の豊かそうなジャンナの『色気講座』に、ヴィヴィは色気ゼロの平らな胸の前で腕を組み、したり顔で頷く。
「他には、純粋な女性――無垢で色気を感じさせないところが、かえって男性には色気として映る訳ね」
「なるほど……色気にも個性があるんですね」
「そうよ。それで、ヴィヴィの色気はというと――」
ジャンナはそう言って、マスカラがごってりと塗り込められた目でヴィヴィをじいと見つめると、改めて口を開く。
「うん……ヴィヴィの色気は『無邪気さ』……かしらね」
「無邪気……?」
ヴィヴィは斜め上を見つめてそう呟く。確かにクラスメートや家族からそのようなことを言われることは多い気がする。そしてその象徴が「お子ちゃま」呼ばわりだ。
(でも、そんなのに色気、感じるかな……?)
「無邪気さ……つまり無垢とは、残酷さと対極にあると私は思うの」
(無垢と、残酷さ……?)
一見相容れなさそうな二つのワードに、ヴィヴィは茶色の眉を潜める。