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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章
「私のFP『サロメ』の印象はこうよ……無邪気な残酷さを兼ね備えた――そう……テディベア持ち、まるで幼女の様に奔放なサロメ」
ジャンナの斬新な解釈に、ヴィヴィは驚嘆し……しかし妙に納得した。
「確かに……預言者ヨカナーンが自分を見ないことに癇癪を起こし、まるで玩具のようにその首を欲しがるサロメは、幼女そのもの……」
それはまるで目から鱗が落ちたかのような衝撃だった。ヴィヴィが放心した表情でそう呟いた言葉に、ジャンナは満足そうに微笑み、頷く。
「『無垢な魔性への傾倒』……これが私の創る『ヴィヴィのサロメ』よ――」
ヴィヴィはFPの間、ジャンナとのやり取りを思い出しながら滑っていた。
美しいハープの音色を挟み、オーケストラの響きは哀愁を持つものに変わる。ジャッジの前で止まったヴィヴィは視線をさらにその先へと合わし、ゆっくりと長い脚でもう片方の足の前をつま先で辿り、大きな円を描く。ちろちろとまるで熾火(おきび)の様にも見える深紅の裾が漆黒の布地から見え隠れし、ヴィヴィの醸し出す世界感を後押しする。もう片方の足も同じように腰をくねらせて氷の上を運ばせると、会場から漏れる「ほぅ……」という溜め息がヴィヴィの鼓膜を震わせた。
『サロメは自分の類い稀な美しさ自覚し、それをたっぷり無邪気に享受して、周りの男達を惑わしてきた』
ジャンナの言葉がさらにヴィヴィの心に火を灯していく。会場を魅了したことを感じ取ったヴィヴィは、狡猾さと紙一重とも取れる満足した笑みをその可愛らしい顔に湛えると、俯いて匠海から視線を逸らす。
後ろへと漕ぎ出したヴィヴィは、まるで身に纏っている幾枚ものベールを剥ぎ取り風になびかせる様に腕を躍らせながらスピードに乗ると、トリプルサルコウからの三連続ジャンプをクリーンに降りる。
『15歳という年齢だからこそ持っている「あどけなさ」。それを旨く使う術(すべ)を、サロメは生まれながらの王女として周りに傅(かしず)かれながら体得してきた。そしてきっと、預言者ヨカナンーンもそんな無垢なサロメに惹かれ始めていた――』
ジャンナの言葉が呪文のようにヴィヴィの心を導いていく。
(この金色(こんじき)に輝く豊かな髪も、細い柔腰も、銀の鏡に映る白い薔薇の如き純潔も。全て其方(そなた)に授けよう――ヨカナーンや)