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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

「ウェストの細さがより引き立つね……。ヴィクトリアの可愛いおっぱい、ふっくらしてて」

 匠海はそう賞賛してくれるが、視線を落としたヴィヴィは、自分のあまりの胸の無さに顔をしかめる。

「……や……っ」

 実はヴィヴィは、コルセットベストが苦手。

 胸の下からベストになっているそれは、何の為にか異常に胸の膨らみを強調させるデザイン。

 SPでは、ペトルーシュカが恋する “バレリーナ” になりきる為に着ているが、プライベートでは手を出したくない代物だった。

(ヴィヴィのお胸が、Dカップくらいあったら、着こなせるんだろうけど……)

 豊満な乳房が零れ落ちんばかりの状態だったら、ヴィヴィだって大好きな兄を喜ばせたいから、ノリノリで着てあげるのだが。

「ほら、ふかふかだな、ヴィクトリアのおっぱい」

 クリーム色のシャツの膨らみに、嬉しそうに頬擦りしてくる匠海。

「……お胸、だめぇ……っ」

 両腕で胸を隠して困り果てるヴィヴィさえも可愛い、とでも言わんばかりに、匠海はその後も妹の姿を愛でていたのだった。
 





 3月12日(土)。

 午前中にレッスンを終えたヴィヴィは、屋敷に戻って所用を済ませ。

 例の如く、児童養護施設 新緑園で子供達に遊んで貰い。
 
 ディナー後に再度リンクへ向かおうとしたが、クリスが双子の愛車で出掛けてしまったらしく、運転手に送って貰った。

 時刻は21時。

 ジュニアやシニアの子達が貸切練習をしているメインリンクは、結構賑やかで。

 ヴィヴィはその隣のサブリンクで、ジュリアンから提示された演技構成表を手に、振付を考えていた。

 同じリンクには、「最近、ジャンプが決まらなくてぇ~……っ」とひとり自主練に励む、ペアスケーターの下城 舞の姿もある。

 ペアの相方 兼 彼氏の成田達樹に迷惑を掛けたくない――そう必死に頑張る姿は、本当に素敵だ。

 たとえ転びまくって氷まみれで、頭がぼさぼさになっていようとも。

 舞の真っ直ぐな心根の美しさは、決して損なわれる事は無い。

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