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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章
「おっと……」
小さく呟いたヴィヴィは、意識を舞から振付へと戻す。
昨年の8月からちょくちょく手伝っている振付は、これで4件目となる。
優れたスケーター = 優れた振付師 という理想は、皆無に等しく。
自分以外の人間に初めて振り付けたものは、ジュリアンから駄目出しの連続だった。
「あんたが滑るんじゃないのよ? この振付じゃ、滑る子を全く引き立たせてあげられないじゃない」
・振り付ける子の弱点をカバーする
・もしくは、逆にそれを強みに変えてあげる
・体力や技術力に応じた内容にする
そんな当たり前の事すら出来ていなかったヴィヴィは、母の苦言や助言を真摯に受け止め、試行錯誤を繰り返し。
ようやく3件目の振り付けで、及第点を頂けるまでになった。
そうこうしてヴィヴィの作り上げた振付は、母の前で披露され。
それを最終的にコーチであるジュリアンが、本人に落とし込んで完成させる。
ヴィヴィは振付ける本人とは(この件に関しては)なるべく接触しないように心掛けている。
これはあくまで “母に対する恩返しと償い”。
日本のスケ連やISU(国際スケート連盟)に提出する資料には、振付師として母の名前しか出さない事になっている。
ヴィヴィからそうして欲しいと、母に依頼したのだ。
自分には1銭も入って来ないが、それを上回る勉強をさせて貰えている。
(美波ちゃんは、普段から恥ずかしがり屋の引っ込み思案で、緊張すると更に笑顔が出にくい子……。ステップの途中か演技中盤で息抜きの場所を作って、そこで “笑うという動作” を作ってあげよう)
イヤホンから流れてくるのは、ヴィットーリオ・モンティ作曲の『チャルダッシュ』。
2006-2007シーズンに浅田 真緒がFPで使用してから、彼女に憧れたジュニアやノービスの子達が好んで使用するようになった有名&定番曲。
ヴィヴィはヴァイオリンのレッスンで、初等部6年生の頃に必死に練習した覚えがある。