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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章
「ええと……、3T+3T、3Lo、StSq、FSSp、LSp、2A、CCoSpの構成で、スピンはレベル3~4、ステップはレベル2~3を目標に……、か」
技術構成をぶつぶつ復唱して頭に叩き込んだヴィヴィは、早速動いて振付を開始する。
「ああでもない、こうでもない……」と悩んでいると、
「ヴィヴィ~? まだやるの? 私、先に上がるよ~?」
疲労を滲ませた声を掛けて来た舞に、壁の大きな時計を仰ぎ見れば、もう23時になっていた。
「あ~、もうちょっと、やってくね。今日明日で、仕上げちゃいたくて」
ヴィヴィのその返事に、
「あんま、根つめない様にね? 新人振付師サン♡ お疲れ~!」
と、舞は手を振って上がっていった。
いつの間にやら、メインリンクにも人影が無く。
それならば、広いリンクで音響設備を使って振付を続けようと、隣に移動した。
鏡張りの一角で、繋ぎの部分の振付を試してみる。
(柔軟性には若干乏しいんだけど、美波ちゃんは、背筋が綺麗なんだよね……。それを生かして……)
ハンガリーの民族舞踊に乗せ、幾通りか動いて確認しては、考え込む。
『チャルダッシュ』はハンガリー語で「酒場」を意味する、ジプシー音楽では定番の形式。
曲は大きく分けて “2つの要素” から構成される。
“ラッシュ” パートでは、テンポを落として抒情と哀愁を表現し、
“フリスカ” パートでは、速く軽やかに情熱と躍動感が表現される。
大体の振付が決まり、最初から2分50秒を通してみることにした。
さすがに疲れているので、ジャンプは全て1回転だが。
演技後半のフリスカを小気味良く踊りながら、ヴィヴィは意識して笑顔を浮かべる。
最後、華やかな和音の響きと共にフィニッシュしたヴィヴィだったが、その小さな顔からは一瞬にして明るい笑顔が剥がれ落ちた。
(笑顔……か……)
少し乱れた息と共に、ヴィヴィは小さな嘆息を落とす。
上手く笑えていただろうか、と思う。
1週間前――兄の同伴で経営者倶楽部パーティーに参加した帰り、
2度目の見合いの予定を聞かされた時。