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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章
『来週の土曜日。夕方から、横浜で見合いをするからね』
リムジンの後部座席で、そう決定事項を伝えてきた兄。
スマホに 今日紹介された人物や、交流を深めて来た経営者の面々との会話内容を打ち込んでいたヴィヴィは、一瞬固まり。
『そっか。お兄ちゃんも大変だね?』
そう軽口を叩いて、ヴィヴィは笑ったのだ。
咽喉元まで、不満や文句、そして何とも言えない感情がせり上がって来るのを、必死に飲み下しながら。
「………………」
惰性でリンクを大きく廻りながら、細く長い息を肺が空っぽになるまで吐き続けてみる。
『だからどうして、1週間前に言うの?』
『何処の誰とお見合いをするの?』
『今度は誰の紹介で、お兄ちゃんはどういう風にお世話になっている人なの?』
『そのお見合いは、どうしても断れないものなの?』
――そういった、匠海に対する憤りの感情が、吐き出した息と共に、身体の中から全て排除出来るのではないかと思って。
今日、昼過ぎにリンクから戻った双子と入れ替わりに、びしっと三つ揃えのスーツを着こなした匠海は、出かけて行った。
自分ではない女の為に、身だしなみを整えて出て行く兄の後ろ姿を見送りながら、ヴィヴィは思った。
(「お見合いをする」と真実を伝えられる現状の方が、幸せなのだろうか……。それとも、知らないところでお見合いされていた方が、まだマシだったろうか……)
しばし考えてみたヴィヴィだったが、結論は、
(どっちも嫌に、決まってるじゃない~~っ!!!)
という、身も蓋もない結論だった。
――で、屋敷にいると隣の部屋に居ない匠海に鬱々としてしまって。
ヴィヴィは逃げる様に、リンクへと出て来たのだ。
氷の上で止まってしまったヴィヴィは、両の拳を握り締め、まるでむきになっているかの様に、氷を蹴って周回する。
空調のブーンという鈍い音と、氷を蹴る鋭い音だけの静かなリンク。
剥き出しの頬をなぞる空気は冷たいのに、どうしても頭の中は冷えてくれなくて。