この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

 なんてガキなんだろう。

 どうして上手く立ち回れないのだろう。

 もうこんな深夜。

 兄も屋敷に帰り着いて、妹の所在の有無を確かめている筈。

 そして、心配して――、

「ヴィクトリア……」

 案の定、リンクに響いた匠海のその声に、氷を削る音が止み。

 ヴィヴィは、 “おいた” を見咎められた子供の表情で、恐るおそる振り返る。
 
 氷と床を隔てる境界線に佇むその姿は、昼過ぎに出て行った時と同じ格好。

 9頭身のスタイル引き立たせる、洗練された三つ揃え。

 上品な物腰は、その佇まいひとつからも滲み出ていて。

 けれど、禁欲的にきっちりと閉じた襟口や袖口から漏れる兄の色香は、全く隠しおおせていない。

 それどころか、
 
 そのタイを緩めて、

 そのカフスを取り除いて、

 奥の奥まで彼の正体を確かめてみたい、と思わせてしまう。
 
 女なら確実に視線と心を奪われるであろう、匠海のその出で立ち。

 ヴィヴィが一番大好きな、兄の麗しいスーツ姿。

「……~~っ」

 悔しくて、やるせなくて、涙が零れそうになるのを、必死に唇を噛み締めて堪える。

 こんな素敵な恋人の姿を、結婚を前提とした見合いの席で、相手の女に見せてしまった。

(お兄ちゃんが、お見合いをすることが親孝行になると思っているのなら……、ヴィヴィ、耐えなきゃ……)

 解っている。

 そんな事、嫌と言うほど解って自覚している。

 真行寺と話したあの日から、

 毎日毎日、思って、

 自分に言い聞かせて。

 だから、口にはしていない。

 文句も、

 募る不満も、

 膨らんでは萎む、猜疑心も、

 押し殺して、

 何処にも吐き出せず。

「………………」

(で……、家、出て来ちゃったんだけど……)

 その情けなさ過ぎる結末に、燃え滾っていた憤りの炎は、冷水ならぬ氷水を浴びせ掛かられたかの様に下火になり。

 薄い胸の奥で、ぶすぶすと醜い断末魔を奏でながら、何とかかんとか鎮火した。

「帰ろう」

 妹の心の中など、手に取る様に判っているのだろう。

 匠海のその静かな催促に、ヴィヴィは何も言えなくなって、その場に立ち竦み。

 所在無げに、氷の上に視線を彷徨わせたのち、

 やがて、こくりと頷いた。




/2774ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ