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第109章 　 　　　　 　　　

　その夜の匠海は、ヴィヴィが「もう、止めて……っ」と息も絶えだえに懇願するまで、ねちっこく抱いてきた。

　何もかもが兄の思い通りで、やりたい放題で。

　何の抵抗も反論も出来なくて、あまりに悔しく惨めだったヴィヴィは、

「こんにゃろぅ……っ」

　噛み締めた白い歯の中でそう唸りながら、キスマークを付けてやった。

　匠海の男の象徴の――その無毛の付け根に。

　桃色を通り越して、どこかにぶつけて鬱血したかの如き、濃い所有のしるし。

　ヴィヴィが今出来る、唯一の仕返し――だったのに。

「……お前は本当に、可愛らしい生き物だな……」

　当の匠海は心底嬉しそうに、そう感激していた。

「……～～っ　……ふん、だっ！！」

　盛大にそう喚いたヴィヴィは、兄が手にしていた大きなバスローブを奪い取り、

　抱き潰されてへろへろの脚で、ひとりバスルームへ向かったのだった。







　３月２０日（日）の早朝から松濤のリンクで調整した双子は、１４：００羽田発の飛行機に搭乗し。

　フランクフルトを経由し、２２：３０にイタリア　トリノに到着した。

　２１日（月・祝日）と２２日（火）は、８時間の時差に身体を慣らしながら、公式練習に参加した。

　２０２１年の世界選手権の会場は、イタリア　トリノにある、６６００名を収容できるパラベラ（競技場）。

　まだ記憶に新しい、２００６年トリノオリンピック。

　日本の荒河静香がアジア選手として、五輪フィギュア史上初の金メダルを獲った会場でもある。

　２３日（水）　男子ＳＰの結果は、

　１位　　篠宮　クリス（18）

　２位　　羽生（はぶ）　結弦（27）

　１１位　宇野　昌麻（24）

　２４日（木）　女子ＳＰの結果は、

　１位　　篠宮　ヴィクトリア（18）

　５位　　宮平　知子（23）

　１８位　本田　まりな（20）

　ＳＰ上位３名によるスモールメダル授与後、行われたプレスカンファレンス。

　各国のメディアからの質問に対し、ヴィヴィは強気の姿勢を取り続けた。

「自分に期待しています。ここに来るまでに、やれることはやってきた。確実に３枠を日本へ持って帰ります」

　沢山のマイクが置かれたセット越しに、大きな灰色の瞳で会場中を見渡す。