この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章
6分間練習が残り1分となった頃。
ヴィヴィはリンクサイドで、クリスが差し出してくれたボトルを受け取り。
ミネラルウォーターで咽喉を潤しながらも、ある種の感慨に浸っていた。
映画『シャネル & ストラヴィンスキー』。
このプログラムを選択したことにより、悪目立ちしてしまったヴィヴィは反感を買い、2年生の女子から陰口を叩かれる様になった。
それは今も――少しましになったとはいえ、続いている。
このFPはお蔵入りにした方がいいのかと、一時期 考えたこともあった。
だがやはり、今シーズンをこのプログラムで滑り続けてきて、正解だったと思う。
(シャネルは、強いから……)
富も名声も、己の夢も愛も、自身の手でもぎ取り勝ち得る――素晴らしくタフな女性。
FPを滑るたった4分間とはいえ、彼女になりきるヴィヴィでさえも、その強さに少なからず感化されてきていた。
6分間練習の終了を告げるアナウンスに、他の5名の選手がバックヤードへ引き上げていく。
くるりとリンクに背を向けたヴィヴィは、ジュリアンとクリスと、そしてまた駆け付けてくれた振付師のパスカール=カメレンゴ、その3名の顔をしっかりと見つめて頷く。
「SMILE、ヴィヴィ!」
「いつも可愛いヴィヴィが、クールに変身するの、見てる……」
「素敵な ココ を演じておいで」
それぞれのくれた言葉を胸に、ヴィヴィは自分の名をコールするリンクへと駆け出して行った。
ジャンプの軸を確認し、衣装に隠れた幸運のお守りの存在も確認する。
充分に時間を使い、スタートの位置を決め。
にいと蠱惑的な笑みを浮かべたヴィヴィは、右腕をゆるりと持ち上げ、紅い唇に咥え煙草を燻らせる。
軽く膝を折った左腰に掌を添え、煙草を離した右腕は、すっと身体の後ろへと引く。
まるで、シャネルの広告から飛び出した様なポーズを取ったヴィヴィ。
その躰を包むのは、シャネルのヘッド・デザイナー、カール=ラガーフィルドがデザインした衣装。