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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

 先端のデザインで装飾された別荘の中、突き進んでいく2人の許されぬ恋。

 互いの創造者としての荒々しい存在感が、インスピレーションを掻き立て合う。 

 天才は天才によってのみ理解される――とでも言う様に。

 フライングチェンジフット・コンビーネーションスピン。
 
 踏み始めたステップシークエンスには、ヴィヴィとシャネルが重なり合う部分を、存分に織り交ぜていく。

 不倫の恋を、道徳的に美化することの無いシャネル。
 
 禁断の恋に、溺れ、道連れにし、

 それでもなお、兄をその束縛から解放することの無いヴィヴィ。
 
 不倫相手の妻に「あなたにモラルはないの?」と詰め寄られるも、シャネルは「ないわ」と切り捨てる。
 
 非難の目に晒されながらも、そんな緊迫にさえ魅力があるとでも言いたげに。

 惹かれあい求めあい共振する、2つの魂と肉体。

 けれど――、

 妻に不倫がばれ、不甲斐無さを露呈するストラヴィンスキーに、徐々に恋は冷めていく。

 それでも、芸術の実るその先には “春の訪れの歓び” がある。

 そして、生み出された “N°5の香り” 。

 瞳を細めて追憶の糸を手繰るヴィヴィは、スパイラルシークエンスをしっとりと浮かび上がらせる。

 ファゴットの音色と共に、2人の心は、別荘を取り巻く緑の森を駆け巡る。

 リトアニア民謡をなぞった『春の祭典』のイントロが静かに響く中、色っぽい仕草で首筋に香りを纏い、

 最初と同じポーズで滑り終えたヴィヴィは、何にも揺るがぬ毅然とした佇まいだった。

 男女の恋が終りを迎えても、その香りと音楽は、永遠に――。

 そう、

 ヴィヴィとクリスがスケートを辞めたとしても、

 自分達の演技が、後世まで渡って愛されるのと、同じ様に――。
 




 ひっそりと目蓋を瞑ったヴィヴィ。

 再び長い睫毛が上げられた時、そこに宿るのは ほっとした微笑みだった。

 両腕を大歓声に向けて広げ、礼を取るその姿は、世界女王に相応しい風格と、凛とした立ち姿。

 その後に発表された結果は、言わずもがな――のものだった。



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