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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

 元々のバレエ作品は、バレエダンサーの持つ “美しさ” を全て剥奪するような振付。

 風にたなびく美しい髪は帽子で隠され、

 ダンサーの引き締まった肉体は、だぼだぼのピエロ服に覆われてラインが出ず、

 端正な顔も白塗りに真っ赤な頬紅、で見るも無残。

 繊細な表現を生み出す指先にまで、分厚い手袋がはめられる。

 その上、男性ダンサーの見せどころでもある、高さのあるグラン・ジュテ(跳躍)や、高速のピルエット(回転)も封印され、

 手足をバタバタとぎこちなく動かし、地面を這い回り、

 挙げ句の果てに虫けらのように殺され、

 最後は亡霊となり、窓から上半身をぶらんぶらんと垂れ下げ、幕となる。

(まあ、バレエっていうより、お芝居って感じ……? ストラヴィンスキーのちょっとレトロな音楽に乗せて、紙芝居を捲る様に、バレエの舞台が進んでいくような……)

 まあ、それだけ特殊なバレエをスケートに落とし込む為に、クリスは四苦八苦していた。

 そして今――、

 目の前のリンクで、クリスは完璧に “藁人形” を演じて見せていた。

(でも……、そもそもペトルーシュカって、本当に “人形” だったのかな……?)

 ここの所、ずっと気になっていたことに、ヴィヴィは小さな頭の中で首を捻る。

 ヴィヴィ扮する “バレリーナ” に恋をし、

 彼女の心が得られないと、苦しみもがく その “人間臭さ”。

 本当は “人形” に姿形を変えられた “人間” だったのではないのか。

 実際に、バレエの第4場「ペトルーシュカの死」では、荒くれ者のムーア人に半月刀で切り殺されたペトルーシュカの “道化の仮面” が割れて、剥がれ落ちるシーンもあるし。

「………………」

(人形、か……)

 1年半前――葉山の別荘で恐慌を来したヴィヴィからは、想像も付かなかっただろう。

 まさか自分が、忌み嫌っていた “人形” を演じる事になろうとは――。

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