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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第109章           

 きっかけはクリスの薦め。

 先に決まっていたFPと関連する、ストラヴィンスキーの曲を、と。

 けれど、ピアノを通して曲に触れ、モダン・バレエで踊り、そしてプログラムと向き合う度に、 “人形” という取るに足らないトラウマなど、気にも掛けなくなっていった。

 そこには勿論、匠海から絶える事の無い深い愛を注がれてきた年月も、存在していて――。

 そして、それに匹敵するくらい、クリスの存在が大きいシーズンだった。

 この一年。

 クリスと同じプログラムを、SPとFPで演じる事になり。

 互いに切磋琢磨し合い、各々が日々刺激を受け与え、

 技術的にも精神的にもプログラムに歩み寄れ、より身近に感じられた。

 そうして各々、満足いくものに仕上げられた事に、双子の兄へ深く感謝したい。

 今シーズン得られた経験は、確実に自分達の糧となった。

 それを、来シーズン――五輪シーズンへと繋げて行く。

 大切な双子の兄。

 自分の最大のライバル。

 彼の一番近くで、日々一緒に、またオリンピックを目指せる喜びに、

 ヴィヴィは瞳を細めて、リンク上のクリスを見つめたのだった。






 国別対抗戦の翌日からは、双子はシーズンオフとなり、大学の講義も始まった、。

 その週末、4月16日(土)。

 夜から匠海の同伴として、日米交流170周年記念パーティーへと赴いた。
 
 もう兄の同伴をするのは6回目。

 遥かに年上の方ばかりとはいえ顔見知りも増え、ヴィヴィはそれなりに楽しめる程の余裕を備え始めていた。

 匠海も妹の様子を優しく見守り、時に抜かりなくフォローもしてくれ。

 将来は外交官として、国同士を繋げる橋渡しをしてみたい――。

 そんな淡い夢を抱いているヴィヴィにとって、兄が与えてくれたこのチャンスは、その予行練習にもなる素晴らしい社交の実践場となっていた。
 


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