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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 5月1日(日)。

 カナダ トロント。

 近代建築が美しい、フォーシーズンズ・センターのロビー。

 クリスの誕生日のこの日、薄紫色の清楚なワンピに身を包んだヴィヴィは、大判のパンフレットに没頭していた。

 ナショナル・バレエ・オブ・カナダ(カナダ国立バレエ団)。

 その公演を観に来たのだ。

 演目は『ジゼル』――ロマンティック・バレエの傑作。

 プリンシパルの経歴等に目を通すヴィヴィの左腰には、何故か細長い男の腕が絡み付いていて。

 華奢な右肩には、金色の頭がこてと載せられていた。

「……ク、リス……?」

 一緒にパンフレットを覗き込んでいる、双子の兄を呼べば、

「なあに……?」

 そう甘ったれた声が返ってくる。

 すりすりと頬を肩に擦り付けてくるさまは、まるで猫。

 その度に、ふわりと薫る爽やかなシャンプーの香りに、ヴィヴィの瞳がぱちぱちと瞬かれ。

「な……なんでも、ない……」

「……そ……?」

 静かに相槌を打ったクリスは、空いている右手で、勝手にパンフを捲ってしまう。

(ど、どうしちゃったんだろ……、クリス……)

 やや困惑気味にパンフから視線を上げたヴィヴィの目の前、双子を見比べる女性は苦笑していた。

「そろそろ、行きましょうか」

 開演10分前になり、腕時計を見て立ち上がった彼女――振付師のローリー・ニコルソンは、そう言って双子を促した。

 クリス・ヴィヴィ・ローリーの順で座ったシート。

 またべったりと妹にくっ付いてくるクリスに、ヴィヴィは、

(公演中も、こうなのかな……?)

と、集中して観れるのか若干不安になった、が。

 流石に、自身もバレエを齧っているクリスは、オーケストラがチューニングを合わせ始めると、しぶしぶ華奢な身体から己のそれを離した。



 4月29日(金・祝日)からカナダ入りした双子は、トロント在住の振付師:ローリー・ニコルソンの元を訪れた。

 もちろん、今季のプログラムを振付けて貰う為に。

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