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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
60代とは思えぬ美しい金髪を湛えたローリーは、現在、フィギュア界で最も影響力のある振付師――とされている。
演技の繋ぎを巧みに組み込んだプログラムが特徴的で。
数え切れない程の世界のトップ選手が、彼女のプログラムを欲している。
ヴィヴィがローリーを選んだ理由。
それはミシェロ・クワンの『サロメ』を振付けた人として、以前から興味を持っていたから。
4年前。
五輪シーズンに自身が『サロメ』にこだわった時、先人の振付をしたローリーにも、いつか振付けて貰いたいと思っていたのだ。
で、ヴィヴィは以前から決めていた、FP『ジゼル』を彼女にお願いしたのだが。
何故だかクリスまで、「SP……。ローリーに、振付、頼む……」と言い出した。
てっきり、いつも世話になっているロシア人振付師:ジャンナ・モロゾワに、五輪シーズンの振付を依頼すると思っていたのに。
理由を尋ねたヴィヴィに、クリスは
『デニス・タン選手(カザフスタン)の2012-2013シーズン SPとFP『アーティスト』が、気に入ってたから……』
そう尤もらしい理由を並べて来たので、ヴィヴィは一応納得した。
そんな双子を見ていたコーチ 兼 母のジュリアンが、
『ローリーは、ISUの “ジャッジ講習会” で講師をしているの。演技構成点をどう評価するかについて、現行のジャッジ陣は、ローリーから学習しているってわけ』
後で、そう娘に耳打ちしてきた。
母の説明に納得しかけたヴィヴィだったが、
(まさか、それだけの理由で……、ジャッジ受けが良いからってだけで、クリスは振付師を選んだりしないよね……?)
そんなこんなのやり取りを思い出していると、2000名の観客の目の前で、バレエの幕が開いた。
バレエ『ジゼル』は、
“婚礼を目前に控えながら非業の死を遂げた娘が、生前の踊りに対する情熱を死後も断ち切れず。
精霊ウィリとなり、真夜中に出会う若者を踊りの輪の中に引き込み、疲れ果てて死ぬまで踊りを続けさせる”
という伝説に基づいている。