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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
お世話になっているローリーの屋敷に帰り着き。
彼女から今日のバレエの感想を求められたヴィヴィが、最初に口にした言葉は、
「こ、怖かった……っ」
ヴィヴィのその端的な感想に、ローリーは声を上げて笑う。
「うふふ。確かに、ピーター・ライト版は、独特よね?」
ヴィヴィが日本で観ていたDVDは、ボリジョイ・バレエ団のラヴロフスキー版。
今日演じられたのは、ピーター・ライト版で、演出の仕方が違うのだそう。
「ジゼルの死因……弱い心臓のせいじゃなくて、恋人のアルブレヒトの剣での自殺……になってた」
紅茶が満たされたマグカップを、掌に包み込んだヴィヴィ。
少し怯えた様子のヴィヴィに、ローリーは頷いて先を促す。
「ウィリ(精霊)達がヴェールを被ってるのも、ヒラリオンを殺すために、じりじり にじり寄っていくとこも……。あとあとっ ウィリ達が群舞じゃなくて、一人ひとり意思を持って動いるの……。超怖かったぁ((( ;゚Д゚)))」
「確かに……。独特の怖さ、あったね……」
妹の感想に、クリスもそう続けてうんうん頷く。
「まあ、マッツ・エック版では、ジゼルは死ぬのではなく、精神病になるって解釈だしねえ?」
ローリーのその補足情報に、
「そ、そんなバレエ、観たくないぃ~~」
情けない声を上げたヴィヴィ。
「で? 気持ちは変わらないかしら?」
マグカップに口を付けるヴィヴィに、目の前に座ったローリーが、その表情を覗き込むように視線を寄越してくる。
「はい。やっぱり、FPは “恋人の裏切りを知ったジゼル ~ ウィリになり果てても最終的に恋人を助けるジゼル” を演じたいです」
きっぱりと意思表示したヴィヴィに、ローリーは「分かったわ」と納得してくれた。
実のところ、『ジゼル』をフィギュアで扱う選手は結構いる。
大体の選手が “第1幕の可憐なジゼル” をメインに持ってくるのだが。
ヴィヴィは「第2幕 重視で行きたい」と、以前からローリーにお願いしていた。