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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
一方のクリスは、曲が『A Song for Chris(クリスの為の歌)』。
チェロ協奏曲のそれは、篠宮 クリスの為に創られた一曲――という訳では無い。
単なる偶然だ。
けれど、クリスはこの曲に物凄く思い入れがあるようで。
「FPのテーマは、 “自分自身” にします……」
ディナーの後、クリスのリビングでそう口を開いた双子の兄。
彼の話を聞いていた宮田は、「承知した」と言わんばかりに深く首肯する。
しかし、紺のL字ソファーに深く座り、2人を眺めていたヴィヴィは違った。
「あ~~、あれ? 2013-2014のプルチェンコの、“Best of プルチェンコ” 的な?」
(「俺様のこの19年間を、表現してやろう」――的な?)
そう冷やかしたヴィヴィに、
「ちがう……」と、半眼で睨んできたクリスと、
「ヴィヴィ、邪魔だからあっち行ってなさい」と、完全に子ども扱いしてくる宮田。
2人に追い出されたヴィヴィは、「ちぇ~(`ε´#)」と拗ねながら、クリスのリビングを後にしたのだった。
しかし、可愛らしく尖っていた薄い唇は、徐々になりを潜めていく。
その小さな頭の中には、先程 宮田に言われた言葉が、なかなか取れない汚れの様にこびり付いていた。
『五輪シーズンだから、僕はてっきり、ジャンナ・モロゾワ女史に振付けて貰うんだと思っていたよ』
宮田のその言葉には、全く悪気は無くて。
それどころか、ジャンナが振付けるヴィヴィのプログラムが、どれだけ “ハマりプロ” であったかを物語っていた。
自分のリビングの白革のソファーに、ぺたりと座り込んだヴィヴィ。
その脳裏によぎるのは、2年前にジャンナに言われた言葉。
『今の私には、ヴィヴィ、貴女が見えない……』
プログラムを創る時、基本的にはスケーターの、その時の “思い” に近いプログラムを創る――。
そのこだわりを貫いてきたジャンナは、ヴィヴィの “思い” が見えないから、振付は出来ないと断ってきた。
「………………」
(ヴィヴィだって……、本当はジャンナに、振付て欲しかったけれど……)