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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 その翌週、5月14日(土)。

 夕方の篠宮邸の防音室には、双子と母ジュリアン、そして匠海が揃っていた。

 一角に据え置かれたソファーセットで、生徒2人とコーチは、各々1枚の紙と睨めっこをしていた。

 ついでに匠海は、何故か隣のクリスの肩を抱きながら、紙を覗き込んでいる。

「う~ん。どの曲も、捨てがたいわねえ~」

 そう漏らす母に、双子は首を揃えて頷く。

「多数決、取ってはどうでしょう?」

 屋敷とはいえ、コーチに敬語を使うヴィヴィに、母は何故か苦笑しながら頷いて同意した。

 皆が悩んでいるのは、THE ICE2021の双子プログラムの選曲。

 今年も(ヴィヴィの敬愛する)浅田真緒Presentsのそのアイスショーに、出演が決まり。

 浅田直々に、

「今年も双子プログラム、楽しみにしてるね!」

と言われたヴィヴィは、Skype越しの浅田にデレデレしながら、

「お任せくださいともっ!!」

 そう勝手にOKしてしまった。

 まあそんなこんなで、曲は アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲 オペラ『オペラ座の怪人』に決定した。

 ストーリーは言わずもがな――。



 パリのオペラ座に勝手に住んでいる、醜い顔を仮面で覆った怪人が、美しいクリスティーヌに惚れて、歌のレッスンを施す。

 そのクリスティーヌがトップ歌手となり、幼馴染で貴族のラウルと恋人同士になる。

 嫉妬にかられた怪人が、何やかんやとクリスティーヌや周りにちょっかいを出し。

 自分の創ったオペラ上演中、主役の男を殺し、クリスティーヌの相手役として舞台に上がる。
 
 観客の前で怪人の仮面を取ったクリスティーヌに、怪人は激怒。

 彼女をオペラ座の地下にある隠れ家へと攫う。

 恋人ラウルが隠れ家に辿り着くが、怪人に首に縄をかけられる。

「自分を取るか、恋人の死を取るか」

 そう迫った怪人に、クリスティーヌは恋人の命を守るため、怪人にキスをする。

 怪人は「2人でここを立ち去れ!」と2人を逃がし。

 その後、誰も怪人の姿を見る者は現れませんでした――ちゃんちゃん。


 
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