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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章                              


(ありがとう……お兄ちゃんがそこにいてくれたから、ヴィヴィ……頑張れた……)

 そのヴィヴィの気持ちが通じたのか、匠海はうんうんと大きく頷いてくれた。

 雨のように降ってくる花やプレゼントの中、ヴィヴィは心を籠めて四方の観客へと礼を送る。そしてリンクを後にしたヴィヴィを出迎えてくれたのは、興奮した表情のジュリアンといつも通りのクリスだった。

 エッジカバーを付けて日本代表ウェアを羽織ったヴィヴィはキスアンドクライへと移動し、モニターに映された自分のダイジェスト映像を見つめる。冒頭のトリプルアクセルも、コンビネーションのトリプルアクセルもきちんと回り切り、足元のみクローズアップされた映像でも着氷にも乱れはなかった。ヴィヴィのジャンプのスロー映像が流れるたびに、会場からはどよめきにも似た歓声が上がる。

「他のエレメンツはどうでした?」

 ヴィヴィは映像で流されなかったジャンプやステップ等について、ジュリアンに確かめる。

「ほぼ、パーフェクトだったわ。よくやった!」

 ジュリアンにそう太鼓判を押され、ヴィヴィはほっと胸を撫で下ろす。鼻を噛んで水で喉を潤すと、カメラに向かって両手を振りお辞儀をする。

「ヴィヴィ……ずっと兄さんのほう、見てた……ずるい……」

 隣に座ったクリスが、ヴィヴィの耳元でそう囁いてくる。

「だ……だって、変態ヘロデ王のほう、見て誘惑しなきゃ駄目でしょ?」

 クリスの指摘に一瞬口籠ったヴィヴィだったが、すぐに冗談めかしてそう誤魔化す。試合直後とは思えない緊張感のない二人の会話は、得点のアナウンスによって遮られた。

「篠宮ヴィクトリアさんのフリープログラムの得点――141.20点。総合得点――212.90点。現在の順位は、第1位です。またこの得点は2006年全日本選手権での浅田真緒さんが持つ、今大会の歴代最高得点――211.76点の記録を更新しました」

 途端に会場がとんでもない大声援に包まれる。しかしキスアンドクライの三人は、妙に冷静に英語で呟き合っていた。

「いやいや……出すぎでしょ……」とヴィヴィ。

「すごいすごい……」と言葉ではそう言いながら、少し呆れた様なクリス。

「まあまあ。ありがたく、貰っておきなさいよ」

 双子の頭を同時にぐしゃぐしゃと撫でながら、そう言って笑うジュリアン。

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