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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章
「オリンピックへの『はなむけ』……的な……?」
クリスのその言葉にヴィヴィははっと息を飲んだが、ジュリアンは「そうそう」と軽く言ってのける。
「………………っ」
(もしかして、私……オリンピックに、行ける――?)
ヴィヴィはもう一度冷静にモニターに映し出された得点を確認する。現在2位の村下佳菜子の189.73点。そしてヴィヴィの後に滑る3人の選手のFPシーズンベストは、ヴィヴィのそれよりも大分低かった。どれほど素晴らしい完璧な演技をしても、ヴィヴィの212.90点という得点は超えることが出来ないであろう。
(やった――っ!!)
ヴィヴィはばっと立ち上がると、観客席に向かって大きく両の拳を振り上げる。近くの観客から口々に「おめでとう!」「凄かったよ!」と温かい言葉が掛けられた。
その後、ヴィヴィの次の滑走順である本郷理花の名前が呼ばれ、ヴィヴィ達はキスアンドクライを後にした。ヴィヴィはその足でテレビ局のインタビューブースへと向かう。
「ヴィクトリア篠宮選手です。お疲れ様でした。212.90点という素晴らしい点数が出ました。今の率直な感想を教えて下さい」
可愛い女性アナウンサーがそう言ってヴィヴィにマイクを向ける。
「とても嬉しいです。でも、正直……『出過ぎでしょ』って思わず突っ込んでしまいました」
額ににじむ汗をティッシュで拭きながら、ヴィヴィは困ったように笑う。
「トリプルアクセルの二度の成功と、三連続ジャンプも綺麗に決まりましたが?」
「まだ、JUDGES DETAILSをちゃんと見ていないので判りませんが、コーチはクリーンだったと言ってくれたので取り敢えずホッとしています」
「いつも、特にFPは見ていて凄く役に成りきって滑っている印象を受けますが、今日はいつも以上にプログラムに入り込んでいる印象を受けました」
女性アナウンサーのその言葉に、ヴィヴィは少し瞳を大きくしたが直ぐに笑顔がこぼれる。
「そうですね。サロメは自分がやりたかったプログラムなので、曲がかかり始めるとすぐその世界に入り込んでしまいます」
(それに……今日はお兄ちゃんが、ずっと目の前で観ていてくれたから……)
ヴィヴィは心の中でそう付け加えると、指先で頬を掻く。