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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 その後も “セサミストリート” の英語の歌詞をカタカナで黒板に書いて、皆で合唱したり。

 2時間ほど滞在したヴィヴィは、ディナーの時間が迫っていることもあり、皆と別れて帰途へ着いた。

 雨脚が強くなり始め、ヴィヴィの運転する白のレンジローバーにも、大粒の雨が叩き付けていた。

 日も落ち少し混み始めた中野通りは、何度も半クラッチにせねばならず。

(やっぱり、MT車はこういう時に面倒だな~)

 クリスの選択に心の中で愚痴りながらも、薄い胸の奥を占めるのは、匠海に対する懐疑の念。

 今年の1月から始まった見合いは、3月、5月と、測ったように1ヵ月置きに行われている。

 1度目は真行寺家へ逃げ込んで。

 2度目は深夜のリンクへと逃げて。

 そして3度目の今日。

 ヴィヴィは通常通り、屋敷へ向かって車を走らせていた。

(そんなに頻繁に、お見合いをする必要……あるのかな……?)

 ふと湧き上がったその疑念は、むくむくと大きくなるばかり。

 匠海は、本当はどういうつもりなのだろう。

 こんなに何度も見合いを重ねて、一体何がしたいのだろう。

 真行寺の言う通り、匠海は親孝行として見合いをしているのだろうが。

 けれど、それでも、どうしても思ってしまうのだ。

(ヴィヴィじゃ、足りないから――?)

 自分では、匠海の生涯の伴侶にはなれないから?

 婚姻を結ぶことも、

 子を成すことも、

 それらに付随する喜びを兄に与えることも、

 家族を喜ばせることも、

 ヴィヴィには出来ないから――?

「………………」

 真っ直ぐと前を見据えていた灰色の瞳が、険しく細められる。

 キャメル色のステアリングを細い指で握り締め、ずぶずぶと底無し沼に沈んでいく自分の思考を、何とかかんとか現実に引き止め、引き摺り上げる。

(自分に、自信が無いの。

 お兄ちゃんに、何も与えてあげられない、自分に……)
 
 そう思ってしまったヴィヴィは、バツが悪そうに顔を顰め。

 自分を戒めるように、きゅっと歯で唇を噛み締めた。

 そんなことを考えても、

 良いことなんて、何ひとつ無い。

 そう、頭では解っているのに――。



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