この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
その後も “セサミストリート” の英語の歌詞をカタカナで黒板に書いて、皆で合唱したり。
2時間ほど滞在したヴィヴィは、ディナーの時間が迫っていることもあり、皆と別れて帰途へ着いた。
雨脚が強くなり始め、ヴィヴィの運転する白のレンジローバーにも、大粒の雨が叩き付けていた。
日も落ち少し混み始めた中野通りは、何度も半クラッチにせねばならず。
(やっぱり、MT車はこういう時に面倒だな~)
クリスの選択に心の中で愚痴りながらも、薄い胸の奥を占めるのは、匠海に対する懐疑の念。
今年の1月から始まった見合いは、3月、5月と、測ったように1ヵ月置きに行われている。
1度目は真行寺家へ逃げ込んで。
2度目は深夜のリンクへと逃げて。
そして3度目の今日。
ヴィヴィは通常通り、屋敷へ向かって車を走らせていた。
(そんなに頻繁に、お見合いをする必要……あるのかな……?)
ふと湧き上がったその疑念は、むくむくと大きくなるばかり。
匠海は、本当はどういうつもりなのだろう。
こんなに何度も見合いを重ねて、一体何がしたいのだろう。
真行寺の言う通り、匠海は親孝行として見合いをしているのだろうが。
けれど、それでも、どうしても思ってしまうのだ。
(ヴィヴィじゃ、足りないから――?)
自分では、匠海の生涯の伴侶にはなれないから?
婚姻を結ぶことも、
子を成すことも、
それらに付随する喜びを兄に与えることも、
家族を喜ばせることも、
ヴィヴィには出来ないから――?
「………………」
真っ直ぐと前を見据えていた灰色の瞳が、険しく細められる。
キャメル色のステアリングを細い指で握り締め、ずぶずぶと底無し沼に沈んでいく自分の思考を、何とかかんとか現実に引き止め、引き摺り上げる。
(自分に、自信が無いの。
お兄ちゃんに、何も与えてあげられない、自分に……)
そう思ってしまったヴィヴィは、バツが悪そうに顔を顰め。
自分を戒めるように、きゅっと歯で唇を噛み締めた。
そんなことを考えても、
良いことなんて、何ひとつ無い。
そう、頭では解っているのに――。