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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
「………………」
袖を捲り上げたシャツの背に顔を埋め、頬を押し返してくる逞しい背筋と、男性特有の高い体温にうっとりする。
最近気温が高くなり蒸し暑いのだが、兄の熱い体温は少しも苦じゃない。
それどころか、もっと熱くなればいいのに――とさえ思ってしまう。
「ああ、やっと着けてくれた」
兄のその呟きに、ヴィヴィは「ん……?」とくぐもった呻きを返す。
「時計……。せっかくプレゼントしたのに、ヴィクトリア、全然使ってくれない」
肉に岩塩やらハーブやらを擦り込んでいた匠海は、仕込みが終わったらしく。
手を洗い、腰に回された腕を解きながら、背後のヴィヴィに振り向いた。
ひょいと持ち上げられた細い左腕。
そこにはめられたシルバーの時計に、匠海はふっと微笑みながら口付けてくる。
形の良い唇の輪郭が金属に触れるさまに、ヴィヴィの薄い胸がとくりと波打つ。
いつも沢山の口付けをくれる兄。
自分にもあの美しい唇を押し付けられていると思うだけで、ぞくりと肌が泡立った。
何も返事を寄越さないヴィヴィに、匠海は少し不思議そうに見下ろして来て。
「だ……だって、こんなに素敵な時計……。普段使い、出来ないよ」
世間に疎いヴィヴィでも知っているその時計は、素敵だし50万円以上もする高級なもの。
大学等にして行って、万が一傷付けでもしたら――と、ヴィヴィは普段使いするのに躊躇していた。
「馬鹿。この時計は、泳ぐ時に着けられるようにデザインされたものだよ。本当に頑丈だから、毎日使っても大丈夫」
匠海の説明する通り、その時計はモロッコの貴族に「プールで泳いでも平気な腕時計を」と依頼され、創られたのが始まり。
柔らかな丸みを帯びた白い文字盤には、4つのアラビア文字が浮かび上がる、シンプルだけれど洗練された美しさがあった。