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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 ヴィヴィをひょいと抱っこした匠海は、キッチンとダイニングを突っ切り、リビングのソファーへと腰を下ろす。

 肩から半袖にかけて白いレースとなった、紺色の水玉ワンピを纏った妹を、太ももに跨らせた匠海は、自分の腰へと視線を落として口を開く。

「俺はヴィクトリアのプレゼント、してるよ?」

「ん……、気付いてた」

 そう言ってはにかんだヴィヴィは、小さな頭の中で少し前の事を思い出す。



 3兄妹の誕生日パーティーのその夜。

 ヴィヴィは兄への誕生日プレゼントに、某ブラントの本革ベルトを贈った。

 物凄く悩んだ末の、そのチョイス。

 男性は私服でもスーツでも、必ずと言っていい程ベルトをする。

 なるべく沢山、兄に身に着けて欲しかったのだ。

 しかし、匠海からのプレゼントがあまりに高額過ぎ、驚嘆したヴィヴィは、

『ちょ、ちょっと待っててっ!』

 焦った様にそう言い置いて、匠海のリビングから飛び出して行った。

 その5分後。

 戻って来たヴィヴィの手には、3枚の赤色のカードが握られていた。

『こ、これも、あげるね?』

 妹が差し出した名刺大のそれに、匠海の顔がみるみる綻ぶ。

 その様子は、プレゼントのベルトを目にした時よりも、更に嬉しそうで、

『本当に使っていいのか?』

 兄のその確認に、ヴィヴィは恥かしそうにこくりと頷く。

 ヴィヴィが5分で作ってきたカード。

 それらには、こう印字されていた。

“ このカードを手にした人は
  篠宮 ヴィクトリアに 
  何でもワガママを言う事が出来ます
 
  制限時間 : 1時間
  有効期限 : 一生
  但し、譲渡不可 ”

 そして、カードの真ん中には、白と黒の気持ち悪い物体(パンダ?)が描かれており、

「精一杯 お世話します!」という吹き出しまで書かれていた。

 そのあまりに子供っぽいプレゼントに、匠海はくっくっくっと忍び笑いを零す。

『これ、子供の頃に作ってた “肩たたき券” だな?』

 初等部低学年の頃、両親の誕生日や父の日・母の日に、それらをプレゼントしていたヴィヴィ。

 まあ、早々に叩き疲れたヴィヴィは、父の背中に抱き着いて、結局べたべた纏わり付いていただけだったが。



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