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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
長風呂をしてしまった火照った躰を、冷たいミントティーでクールダウンさせ。
朝比奈と就寝の挨拶を交わし、寝室に下がったのが23時。
それからみっちり1時間半――匠海と恋人同士の濃密な時間を持った。
まだ自分の中心に、兄がいるような気がする程、匠海とのその行為は後を引くもので。
横抱きされてバスルームに連れて行かれる、兄の逞しい腕の中。
ヴィヴィはくたりと弛緩した躰を預けながらも、その瞳は「もっと」と強請る様に潤みを帯びていた。
「こら。そんな顔をしては、駄目だよ」
広いバスタブに降ろされたヴィヴィは、その兄の言葉に灰色の瞳を彷徨わせ。
そして、恥ずかしそうに匠海の首筋に顔を埋め、優しく見下ろしてくる兄の視線から隠れたのだった。
「…………ぅ、ん……?」
最初に感じたのは、熱い体温。
空調が整った篠宮家では、たとえ7月とはいえ、暑さなど感じないのに。
次に感じたのは、苦しそうな吐息。
それが、自分を抱き寄せている兄が発しているものだと気付き、ヴィヴィはぱちりと目蓋を開いた。
暗闇の中、ベッドサイドのランプの光に照らし出された、匠海の整った相貌。
いつもなら幼ささえ感じさせる安らかな寝顔が、今は険しく歪んでいた。
白い額にはびっしりと汗の粒が浮き出ており、時折 枕の上で首を左右にゆるゆると振っていて。
「……おにぃ、ちゃん……?」
起き抜けの掠れた小声で呼んでみるも、匠海が覚醒する気配は無く。
ベッドサイドの時計で時刻を確認すると、3時を指し示していた。
(こんなに汗、かいて……。悪夢……? それとも、体調が悪いの……?)
もし後者だとしたら、大変だ。
ヴィヴィは兄の緩い腕の拘束から抜け出すと、その厚い肩を両手で掴んで揺さぶる。
「お兄ちゃん……。お兄ちゃん、大丈夫?」
妹のその呼び掛けに、匠海の身体がびくりと震えて覚醒し。
ゆるりと持ち上げられた目蓋の奥――灰色の双眸に、ヴィヴィのシルエットが映り込んだ。
その途端、
「………………っ」
小さな震えと共にぱっと見開かれた瞳は、まるで目の前の妹を、恐ろしいものと捉えた様な瞳だった。