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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
7月18日(月)。
海の日の祝日であるその日も、ヴィヴィは海とは全く対極にある氷の上で過ごした。
夏は暑い。
「当たり前のことを言うな」と言われそうだが、それは氷の上でも同じ。
冬のリンクも夏のリンクも、ほぼ設定温度は変わらないのだが、何故か夏のリンクは暑くてすぐに汗をかいてしまう。
よって、次第に薄着になり。
ヴィヴィは黒のスポーツブラにグレーのキャミソール姿、でレッスンを受けた。
(こけると、めちゃくちゃ、冷たいんですけど……)
ステップを踏んでいる最中、派手にすっころんだヴィヴィは、氷の上にうつぶせの大の字になりながらそう唸る。
「こら、ヴィヴィ! 集中力、散漫よ~っ」
さすが母上。
じゃなかった、ヘッドコーチ。
ヴィヴィの精神状態など、全てお見通しらしい。
むくりと起き上ったヴィヴィは、氷の屑を払いながらリンクを横切り。
自分を怖い顔で見つめているジュリアンの前に、すくと立ち塞がった。
「どした?」
「……どうやったら、常に平常心で居られるのですか?」
「平常心?」
訝しげに娘を見つめるジュリアンに、ヴィヴィはぼさぼさの頭で頷く。
「何があっても……、苦しくても辛くても悲しくても。もちろん、楽しくても幸せでも嬉しくても……。どうやったら、“いつものヴィヴィ” で居られるのでしょう?」
知っているのなら教えて欲しい。
スケートの技術じゃなくて。
ジャンプの飛び方じゃなくて。
今、一番ヴィヴィに必要なのは、きっと――何事にも動じない、強い心。
「そんなこと」
「…………?」
険しい表情のまま見返してくる母の言葉に、ヴィヴィは「答えが貰える?」と居住まいを正し、続きを待った。
しかし、
「そんなこと知ってたら、私が一番知りたいわ! ってか人間、気合いよ、気合いっ!!」
まさか、そんな単純で浅い答えが返ってくるとは。
ヴィヴィは、シャキッと立っていた身体をだらりと崩す。
「………………、使えねぇ~……」
そうぼそりと日本語で零したヴィヴィに、何故かその意味は感じ取ったらしいジュリアンが、ぎろりと灰色の瞳で睨みつけてくる。
「あ゛ぁあん? なんつった、今っ」