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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 マフィアか、ヤクザか、ギャングか。

 ドスの利いた声で凄んできたジュリアンに、ヴィヴィは「やば……っ」と身の危険を感じ、深々と頭を垂れた。

「何でもございません……。すんません……」

 素直に謝罪したヴィヴィはのろのろと頭を上げ、剥き出しの肩を落としながらリンクへと戻ろうとした。

 その細過ぎる背中に、またジュリアンの声が飛ぶ。

「こら待て。まだ、大切なこと、言ってないでしょ」

「え?」

 まだ何かあったか? と振り向いたヴィヴィを、ジュリアンが手をこまねいて呼び戻す。

「 “いつものヴィヴィ” で居られる方法。まあ、正解じゃないかも知れないけれど、ひとつの方法としては……自分を信じるって事じゃない?」

「……自分を、信じる……?」

 微かに首を傾げたヴィヴィを、母はじいと見つめてくる。

「ええ。まあ、スケートで言うならば、毎日毎日アホみたいに練習に明け暮れて、あんた達は “あんた達の限界” までいつも頑張ってる。それは自信になるでしょう? 本番ではここまでやり遂げた自分を信じて滑る! まあ、月並みだけどね」

「はい……」

 確かにコーチの言う通り。

 365日――余程の理由がない限り、リンクに立っている双子は、その練習量の多さと練習の質が、各々の自信へと繋がっている。

「それに、オフアイスでは、自分に自信を持つことね?」

「陸上でも……ですか?」

 静かに聞き返したヴィヴィに、ジュリアンは大きく頷く。

「ええ。ん~……、例えば恋愛だとしたら、恋人が浮気をしているかも知れない――そんな場合、「それでも自分は恋人にとってこんなに “愛すべきところ” がある。必ず私の元へ戻ってくる」まあ、もしくは、「絶対に自分以外の女と浮気なんかしない、する筈が無い」ってね? 自分に揺るぎ無い自信があれば、どんと構えてられるじゃない?」

「………………」

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