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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

「ま。私のグレコリーは私一筋だしぃ? 浮気なんてありえないしぃ? 万が一、若い女とかと浮気なんかしたら……っ ぶっ殺してやるっっ!!!」

 そう言い放ったジュリアンは、般若の如き形相で、その瞳は血走っていた。

(ダ、ダッド……。絶対に浮気なんてしなさそうだけど……。万が一、間違いを犯しちゃった場合は、絶対にマムには気付かれないでぇ~~っ)

「……は、ははは……っ」

 何だか雲行きが怪しくなってきたので、ヴィヴィは早々に母の元を離れて行った。

 リンクの隅で、先ほど転倒してしまったFPのステップをゆっくりと確認し始める。

 やり始めは集中していたのに、やはり先程コーチから言われた言葉が気に掛かって。

(自分に自信を持つこと……か……。それが一番、難題なんだよね……)

 自分に自信が無いから、相手を疑ってしまう。

 自分に自信が無いから、やきもちを焼いてしまう。

 自分に自信が無いから、平常心を保てない。

 16歳の冬、ヴィヴィは「自分を好きになる」事に取り組んだ。

 自分が嫌いで、匠海に愛されるところなんて、何ひとつ見出せなくて。

 やがてそれは功を奏し、今のヴィヴィは、自分の事が結構好きだ。

 全部じゃないけれど、ある程度は好きだ。

 自分が匠海に愛されるところは、ここなんだろうな――と幾つかは思い当たる。

(っていうか、お兄ちゃんがヴィヴィの好きなところを、言葉にして言ってくれるからってのも、大きいけれど……)

 今の自分に自信はある。

 けれど、対 匠海となると、ヴィヴィは100%自信があるとは言い切れない。

(だって……ヴィヴィ、は……)

「………………」

 普通の恋人同士であれば、ほぼ考える事は無いあろう、その現実。

 匠海の血の繋がった妹であるからこその、この現実。

(そういう場合は、一体……どうすればいいんでしょうか……) 

 コーチに、

 実の母に、

 絶対に聞く事も相談する事も出来ないその問いは、やはり自分で解決するしかしょうがない事なのだ。




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