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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第5章
まだ一般営業中の夕方。
大きなメインリンクの横にある、半分程の広さのサブリンクで、
ヴィヴィは持ち込んだ iPodで音楽を流していた。
曲は―― When you wish upon a star ―星に願いを―。
今日 学校で耳にした時、ふと「この曲で滑ってみたい」と素直に思った。
それは願い事があるヴィヴィが、無意識に欲して選んだのか、ただの偶然だったのか。
そして思い立ったらじっとしていられないヴィヴィは、毎日の日課である勉強や楽器の練習もそこそこに、リンクへと向かっていた。
(最初はチャーミングに、女の子がちょっと、拗ねているように――)
ヴィヴィは腰の後ろで両手を組むと、少し俯いて爪先を見つめるポーズをする。
曲が流れ、拗ねて小石を蹴っている様にトウを動かし。
歌い出しが始まると、何かに気づいたように辺りを伺い、
やがてその視線はゆっくりと、夜空の星へと注がれる。
スピードに乗ってステップからのトリプルアクセル、もしくはトリプルサルコウ。
出来れば片手を上げながら。
(ここはスプレッドイーグルで、たくさん星を振りまく感じで――)
身体の前で水をすくうように、下から持ち上げた両手を大きく上へと開きながら、
両脚のトウを外へと開き、両脚で横に滑る。
シャーロットスパイラルから、アラベスクスパイラルへ。
バタフライからスピンに入り、レイバックスピンの手のポジションは、
必死に請い願う様に胸の下で組んでから、ゆっくりと空を掴むように、指先まで神経を行き渡らせて。
夜空を見上げていた少女は、やがて眠くなり大きなあくびをし、氷の上へと跪き。
――最後は空を見上げて、祈りを捧げる。
(う~ん……子供っぽ過ぎるかな? もうちょっとJAZZとか使って、大人っぽくしたほうが――)
一通り滑ってみて、流しながら考えていた時、
「ヴィヴィ、何してるの……?」
呼ばれた方を振り返ると、サブリンクのフェンス傍、他の生徒を見ていた筈の母ジュリアンが立っていた。
(やっば……っ)
家ではいつも優しい母だが、リンクでは鬼の様に厳しい。
きっと「遊ぶ暇があるなら、全然上達しないSPを滑り込みなさいっ!」と怒られる。
「え、えっと……ちょっと――あ、遊び……?」