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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章                              

 現在の順位と総合得点は、

 1位 ヴィヴィ  212.90点

 2位 村下佳菜子 189.73点

 3位 本田まりな 182.43点

 4位 本郷理香  179.62点 

 5位 今井春香  164.72点

 SP64.19点の宮平がオリンピックの切符を手に入れるためには、グランプリファイナル3位でほぼオリンピックの確定した村下と、今大会3位の本田の間に食い込むFPの点数――118.28点以上を出さなければならない。

(確か、知子ちゃんのシーズンベストは116点台だった筈……)

 厳しい現実に、ヴィヴィはギュッと両手を胸の前で握りしめる。

(ヴィヴィも……知子ちゃんと一緒に、戦いたい――)

 本当はこんなことを思ってはいけないのかもしれない。ヴィヴィも含め、皆オリンピック3枠という切符を手に入れるために必死になっている。特に四年前のソチオリンピックから公式種目となった団体戦では、オリンピック出場選手の中で協力して戦わねばならない。

(けれど……我儘だと分かっているけれど――)

 そう心の中で言い訳をしようとしたヴィヴィの頭に、ポスリと大きな何かが下りてきた。隣のクリスを見上げると「よしよし」という風にヴィヴィの頭を撫でながら視線は真っ直ぐにリンクの宮平を見つめていた。ヴィヴィも視線をリンクへと戻す。

 宮平のFP――リストの愛の夢が流れ始める。

 冒頭のトリプルルッツ―トリプルトウループのジャンプが決まると、大きな拍手が起こった。ヴィヴィも手を叩きながら心の中で祈り続ける。ピアノの調べは後半へと入る。150センチという小さな体を大きく使ったストレートラインステップを挟み、ジャンプは次々と成功していく。

(後は、最後のジャンプ――)

 ヴィヴィは目の前の金属製の柵をぎゅっと握り、身を乗り出して見守る。ダブルアクセルを飛ぼうとした宮平の体が宙に浮いた直後、

「あ……っ!」

 赤い口紅を塗ったヴィヴィの唇からとっさに声が漏れる。氷上の宮平は踏切りがすっぽ抜け、バランスを保とうとしてシングルアクセルとなってしまった。最後の最後にジャンプミスを犯した宮平は、それでも笑顔を保ちながらコンビネーションスピンを回りきると演技を終えた。

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