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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第29章
ヴィヴィは惜しみない拍手を送ったが、フィニッシュポーズを解いた宮平に笑顔はなかった。しばらく呆然としている様だったが、やがて気持ちを切り替えたように微笑みを湛えてお辞儀をする。
双子は視線を合わせると、再度重い扉を開いてバックヤードへと戻る。そして足早にモニターがある通路まで引き返した。そこには多くの報道陣と、パイプ椅子に座って試合の行く末を見守っている現在2位の村下佳菜子と3位の本田まりながいた。一緒にいたクリスは、スケ連の幹部に呼ばれて行ってしまった。
「ヴィヴィったら、どこ行ってたの?」
笑いながらも少し咎めるような声色の村下に、ヴィヴィは「ごめんなさい」と肩を竦める。上位3選手はモニターのある場所で結果を見守らなければならない、という暗黙のルールが存在しているのだ。ヴィヴィは空いているパイプ椅子に座ってモニターを食い入るように見つめる。モニターの隣に置かれたパソコンの画面には、それぞれのエレメンツに対するジャッジの評価が表示されているのだ。
さすがルッツとフリップの飛び分けが出来る宮平は、エッジエラーは付いていなかった。宮平のダイジェスト映像が終わり大分経つが、点数は発表されない。観客がざわつき始める様子がモニター越しにも伝わってくる。そして村下の向こうに座った本田は不安そうな表情でじっとモニターを見つめていた。
「長いね……」
村下の呟きに、ヴィヴィも小さく頷く。その一分後、やっとアナウンスが流れた。観客のどよめきが起きる。
「宮平知子さんのフリープログラムの得点――124.36点。総合得点――188.45点。総合順位は、第3位です」
「―――っ!!」
ヴィヴィは息を呑んで無意識に隣の村下の手を握りしめていた。村下も反対の手で握り返してくる。そして同時に焚かれるいくつものフラッシュ。ヴィヴィと村下はこの時点で表彰台が確定したばかりか、オリンピックの切符も手にしたも同然だった。そんな二人の表情を収めようと、各社の記者がカメラを向けてくる。
そんな中、4位と表彰台に乗れなかった本田が、呆然としてモニターを見つめているのがヴィヴィの視界に入った。
「………………」