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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 ある種の感慨を持って、じいと粘着質なそれを見下ろしていたヴィヴィだったが、

「おにい、ちゃん……?」

 吐精した後から異様に静かで動かない匠海が気になって、呼びながら振り仰げば、

「ああ、ヴィクトリア……、出るところ見るの、初めてだったか?」

 その兄の言葉に、こくりと頷こうとしたヴィヴィは、咄嗟に思い出した。

 違う。

 自分は男性が――兄が吐精する瞬間を、以前目の当たりにした。

 14歳の初夏。

 七夕の翌日。
 
 匠海の部屋で行われていた性行為。

 そしてその最後に、兄が相手の女の太ももに、白濁を吐き出していた事を。

 兄の瞳を見上げていたヴィヴィはふっと瞳を細め、視線をついと自分の腹へと戻す。

「……ん……。びっくり、しちゃった」

 そんな可愛らしい返事を寄越す妹の頭を、大きな掌でくしゃりと撫でた匠海。

 ベッドサイドに置かれていたティッシュボックスごと取り上げると、数枚引き出し。

 妹の肌理細やかな肌を汚すそれを、丁寧に拭い取った。

 それらをポンとベッドサイドに戻した匠海は、少し疲れたように妹の隣に身を横たえ、その細過ぎる躰を緩い抱擁で繋ぎ止める。

「……終わ、り……?」

 いつもの匠海なら休憩なんてほとんど取らず、何度も何度も自分を求めてくるのに。

 兄の首筋から上目使いに様子を窺えば、灰色の双眸は目蓋の内に隠れていて、

「ん……。ちょっと、休憩」

 そう囁く声も、少し気怠げ。

(……? 疲れちゃった、のかな……?)

 ここに来るまでの運転もして貰ったし。

 ランチの用意も、ヴィヴィは用意して貰った具材をパンに挟んだだけだったし。

 そして、海ではめい一杯甘えてしまったし。

 ならば、ゆっくり休んで欲しい。

 心配しなくてもまだ夕方。

 2人の時間は、まだ沢山ある。

 抱き寄せられるだけでも、充分気持ち良くて。

 目の前の咽喉仏が浮き出た首筋に額をすりすりすれば、擽ったそうな吐息が落ちてくる。

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