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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 なのに、

「ヴィクトリア……、ここに当たってるの、誰のだか、判ってるのか?」

「……ふぇ……?」

 兄の言う意味が分からず、ヴィヴィはきょとんと見下ろす。

「お前の “お兄ちゃん” のペニスが当たってるんだぞ?」

「…………う、ん」

(……おにい、ちゃん……?)

 自分を至近距離から見上げてくる匠海の顔付きは、色気纏いながらも、灰色の瞳だけは何故か濁って見えて。

「血の繋がった実の兄を銜え込んで……、悪い子だね」

「………………」

「ちゃんと判ってるのか? してはいけないんだよ、こんなこと」

 兄の追及に、ヴィヴィは瞬きを忘れ、ただただ目の前の瞳を見下ろす。

 どうして今になって、そんな事を確認してくるのだろう。

 もう1年9ヶ月も付き合っているのに。

 その間、自分は匠海と添い遂げる為に、必死に頑張って来たというのに。

 近親相姦は、周りをも不幸に突き落す罪――。

 そんな事は百も承知で、それでも匠海と生きていく決心を見せているのに。

「……お兄ちゃん、は……?」

「え……?」

「お兄ちゃんはヴィヴィが妹だからセックスするの?」

(「うん」って言ったら、別れてやる……っ)

 冗談なんだか本気なんだか判らない事を、胸の中で思ったヴィヴィに、

「……違、う……」

 ぼそりと返してきた匠海の瞳は、はっと我に返ったかの様に、濁りが薄まった様に見えた。

 その事にほっとしたヴィヴィは、にっこり微笑んで続ける。

「ヴィヴィはね、お兄ちゃんを愛してるから、セックスするの」

「うん……」

「だって、恋人、なんだもんっ してもいいんだもんっ!」

 丸みの残る頬をぷうと膨らませたヴィヴィに、匠海はやっと笑った。

「ふっ そうだね、その通りだ」

 妹の頬に頬擦りする匠海は、

「ごめん……変なこと、言って」

 そう、きちんと謝ってきた。

「ん~ん。全然いいよ」

(何でもいいから、言葉にして欲しい……。お兄ちゃんは、自分一人で抱え込んじゃう癖、あるから……)

 自分の事は完全に棚上げして、ヴィヴィはそう思う。

 そういう意味では、2人はとても似ているのかもしれない。

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