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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 意識を取り戻した時、そこは暗闇に包まれていた。
 
 唯一の光源は、開かれたままのカーテンから滲む、頼りない月光。

「………………」

 しばらくぼんやりしていたヴィヴィは、ゆっくりと視線を彷徨わせ、自分がまだ寝室に居る事を認識する。

 そして、うっそりと打った寝返りの先に、匠海の姿が無い事も。

 小さな顔には、淋しそうな表情が浮かんだが、それも一瞬で。

 その中心の高く細い鼻が、くんくんと美味しそうな香りを感じで動く。

 躰を起こそうとしたその時、鼓膜が階段を昇って来る足音を捉え。

 ヴィヴィは何故か目蓋を瞑り、肌蹴ていた上掛けを頭から被った。

 予想通り、その足音は自分のいる寝室へと近付いて来て、

「ヴィクトリア? ……まだ起きてないのか?」

 匠海の優しい声にも、ヴィヴィは微動だにしない。

 更に近付いて来る足音は、ぎしりとベッドの軋む音へと取って代わる。

「ヴィクトリア。そろそろ起きないと、また食べちゃうぞ?」

 上掛けの上から掛けられたその声に、白い塊はやがてもぞもぞと身じろぎし、

「も……だめぇ……」

 情けない声と共に、乱れた金色の髪の中、1対の大きな瞳が覗く。

「はは。じゃあ、一緒にバス浸かって、ディナーにしよう」

「……ゴハン、なあに……?」

 甘えた声音でそう尋ねたヴィヴィに、上掛けを剥がす匠海は意味深に嗤う。

「それは、後のお楽しみ」

 思わせぶりな言葉で妹をきょとんとさせた兄は、楽しそうにその躰を抱き上げてバスルームへと向かったのだった。






 そして、さっぱりしたヴィヴィが、ダイニングテーブルに着いた途端、

「……~~っ やっぱり、オヤジ、だっ!!」

 苦虫を噛み潰した嫌そうな表情を隠しもせず、そう唸った。

「あはははっ」

 テーブルの向こうの匠海は、心底楽しそうに腹を抱えて笑っていて、

 そして、2人の間に饗された1品は、

 種々の “キノコ” のホイル焼き――なのだった。




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