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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 8月1日(月)。

 2ヶ月にも及ぶ夏季休暇(という名の大学生の天国)に入ったにも関わらず、篠宮邸にはクソ真面目な人間がおりましたとさ。

「Хороший уикэнд.(よい週末を)」

「「「До свидания.(さようなら)」」」

 ロシア語教師セルゲイ=スミノフの挨拶に、従順な3名の生徒はそう返す。

 1階のライブラリーで、2時間のレッスンを受けたヴィヴィはといえば、

 ちょんと突かれただけでも、耳からキリル文字が零れ落ちそうなほど、一杯いっぱいなのに。

「Что график вашего уикэнда? (週末、何してるの?)」

「Вы не делаете дату со мной?(デートしようよ~っ!)」

 きゃっきゃとセルゲイに纏わりついて、可愛らしい誘惑をする真行寺 円は、至って元気溌剌だった。

 よく動くその唇からは、聞いた事の無い言語まで飛び出して。

 何だろうと振り返ると、セルゲイが彫りの深い眉の下で、垂れ目気味の瞳を細めて受け答えしている。

「ウクライナ語……?」

 クリスのその呟きに、

「ああ、そっか……。す、凄いな、愛のパワーはっ」

 ヴィヴィは納得しながらも、感心する。

 セルゲイはウクライナ出身。

 自分の国の言葉まで覚えてくれる円は、きっとセルゲイからしてみれば、本当に可愛く映るのではないだろうか。

「………………」

(ゲ、ゲイさん、じゃ、なければ……orz)

 大好きな親友が、思いの届かない苦しい思いをする。

 それを見守るのは、やっぱり辛い。

 そう、ヴィヴィは思ったのに、

「ちえ~っ! またフラれたっ 敵は鉄壁の守りを崩しませんなあ~~」

 ライブラリーを出て行ったセルゲイに、唇を尖らせながら拗ねる円は、なんだか楽しそうで。

「ウクライナ語、凄いね……」

 クリスのその言葉に、ばっちりメイクをした顔がくしゃりと幼くなる。

「うんっ ウクライナ語って、ロシア語と同じキリル文字使うんだよ~。でも、全然違うの!」

 喜色満面にそう続ける円は、恋する乙女全開で、とても幸せそうなのだった。





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